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 ここ数年の春闘で会社員の賃金は上昇しているとされるが、暮らしが楽になったという実感は乏しい。背景にあるのは増え続ける社会保険料や税金だ。民間シンクタンクの試算では、「手取り」を維持するだけでも1・5%の賃上げが必要とされており、今春闘で政府が要請する「3%の賃上げ」が実現しても、そのうち半分は増税などで帳消しになってしまうのが実情だ。 (木村留美)

 大和総研の試算によると、税制が変えられた影響などで、夫婦のどちらかが働く「片働き」の年収五百万円の世帯(子ども二人)の手取り収入は、二〇一一年と比べ一七年は二十五万四千八百円減った。

 内訳は、社会保険料では厚生年金の保険料率が一七年まで毎年原則0・177%(個人負担分)ずつ引き上げられるなどし、手取りが約五万三千円減少。一四年には消費税率が5%から8%に上がったことで約八万八千円の増税となり、実質的に手取りが減った。さらにこの間の子ども手当の見直しで、受給者の大半が減額となったことも手取りを減らした。

 共働きで年収一千万円の世帯(同)の場合は、一一年と比べて一七年は約三十八万円減った。消費税増税の影響が約十七万円、社会保険料で約十一万円減ったことなどが響いている。「片働き」の年収三百万円の世帯(同)でも全体で約二十万円減少した計算だ。

 今後も一九年十月に消費税率10%への引き上げが予定されていることから、共働きで年収一千万円の世帯の二〇年の手取りは、一一年と比べ約四十七万円減ることになる。

 試算を行った大和総研の是枝俊悟氏は「増税や物価上昇などを考慮すると、毎年1・5%程度の賃上げで、実質的な可処分所得(手取り)をようやく維持できる」と指摘している。

 政府の統計である「国民経済計算」(内閣府)をみても、第二次安倍政権が発足した一二年度から一六年度までの間、働いた人が受け取った額面の総額に近い「雇用者報酬」は約十六兆八千億円増えたが、手取りに相当する「可処分所得」は約七兆九千億円しか増えなかった。

 一七年の賃上げ率(経団連調べ)は、大企業で2・34%、中小企業では1・81%と1・5%をギリギリ上回るくらいの水準。是枝氏は「大企業従業員でも実質的な手取りの上昇率は1%にも満たず、ほとんどが増税などで打ち消されている」と述べており、賃上げの実感を得るためには大幅な賃上げが必要となっている。

東京新聞:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2018021290070841.html