警察官の職務質問を受けた対象者が119番し、救急車を呼び寄せたケースが昨年、大阪府内で約70件あったことが14日、大阪府警への取材で分かった。職務質問を逃れる目的とみられる。職務質問をめぐっては、大勢の仲間を呼び寄せる妨害行為が問題化しているが、府警幹部は「救急要請が職質逃れの新たな常套(じょうとう)手段となっている」と指摘。犯罪摘発の低下につながる恐れがあり、府警は対策を進めている。

 警察官は、覚醒剤の使用が疑われるなどの不審なことがあれば職務質問することができる。覚醒剤のケースであれば、まず相手に任意での尿の提出を要請。拒否されれば強制採尿できる令状を取得したうえで、令状の執行による尿検査で陽性反応が出ると逮捕、という流れだ。

 だが、職務質問を始めてから令状執行まではあくまで任意の活動のため、この段階で強制的に相手を従わせるのは違法。このため対象者が急病を装って救急車に乗り込んでも、止めることはできない。要請を受けた側も「急病だといわれれば、搬送しないわけにはいかない」(大阪市消防局)というのが実情だ。

■「逃げ得」許さぬ

 府警によると、救急要請が“職質逃れ”に使われるようになったのは数年前から。薬物事件で目立つようになったといい、府警は平成28年から該当するケースについて統計的な調査を開始。同年は40件だったが、昨年は約70件と増えており、手口としての救急要請が横行しつつある実態が分かった。

過去には診察の間に隙をみて逃走するケースもあったといい、府警は救急搬送された場合、警察官が病院まで同行して令状取得を待つなどの対策を取っている。応援要請などを含めて難しい対応を迫られているが、府警幹部は「あらゆる手段で粘り強く対応していく。逃げ得は許さない」としている。

■挙動不審男に所持品を見せて採尿に応じるよう求めると…

 捜査の端緒となる警察官の職務質問から逃れるために、救急車が悪用されている実態が浮かび上がってきた。警察当局は“職質逃れ”の新たな手口として、薬物事犯の間で広がっているとみている。悪質な救急要請が横行すれば、急病人やけが人の搬送にも支障が出る恐れがある。警察は対処法の確立を急ぐとともに、質問技術の向上を図るなど対策を進めている。

 昨年8月、大阪・ミナミの繁華街。パトロール中の警察官らが挙動不審な男を発見した。「覚醒剤を使っているのではないか」。そう疑い、所持品を見せて採尿に応じるよう求めた。

 しかし男は耳を貸さず、携帯電話を手に近くの店舗に入っていった。しばらくすると、店の前に救急車が到着。男は救急隊員に自分が呼んだと説明し、そのまま乗り込んでしまった。

■摘発の重要な端緒

 交番勤務の警察官などによる職務質問は犯罪摘発の重要な端緒となっている。大阪府内では職務質問をきっかけにした刑法犯の摘発数が平成20年には2万905件に上っていた。

 近年は刑法犯全体が大きく減少していることもあって、25年には9552件で1万件を割り込み、昨年は6526件まで減った。急速な減少の要因には治安の回復というプラスの面があるものの、あの手この手で職務質問を逃れようとしているマイナス面も潜んでいるとみられる。

■仲間呼び寄せ妨害、弁護士会館に駆け込み…多様化する“職質逃れ”の手口

 “職質逃れ”として近年問題となったのは、電話で仲間を呼び寄せ、集団で職務質問を妨害して職務質問の対象者を逃す「奪還」と呼ばれる行為だ。

 府内では28年、職務質問約140件の現場に延べ約550人が集結。29年は約200件で約520人が集まった。妨害の方法も集団で警察官を取り囲んで邪魔するだけでなく、路地に逃走用のバイクを用意するなど多様化しているという。

 最近では、職務質問を受けた人物が大阪弁護士会館(大阪市北区)に駆け込むこともあった。

 昨年5月のケースでは、男性を追って警察官が会館内に入ったが、無断で立ち入ったとして問題視され、大阪弁護士会が抗議。

 そんな中、同10月にも男が弁護士会館に逃れる事案が発生。後に覚せい剤取締法違反(使用、所持)の罪で起訴された男は産経新聞の取材に対し、以前に大阪府警が弁護士会から抗議を受けた経緯を「知っていた」と答えた。

>>2以降に続く

2018.2.14 16:00
産経ニュース
http://www.sankei.com/west/news/180214/wst1802140052-n1.html