50歳までに一度も結婚したことがない人の割合を示す「生涯未婚率」が上昇しています。少なくない割合の男女が「結婚しない社会」では、親の死をきっかけとする「親ロス」がうつ病につながる可能性も心配されています。大阪大招へい教授で中高年のメンタルケア、うつ病治療、男性更年期に詳しい石蔵文信医師が解説します。【毎日新聞医療プレミア】

 ◇家族関係もうつ病の発症要因に

 私の男性更年期外来には、50歳前後の働き盛りの男性がたくさんやってくる。そしてその多くが仕事と家庭のダブルのストレスでうつ状態になっている。
 
(中略)
 
 男性にとっても女性にとっても、結婚や家庭生活は大きなストレス要因だ。性ホルモンがバンバン放出されている若い時、互いに引かれ合って結婚するが、その後の現実は人を冷静にする。特に家事や出産などの負担が大きい女性は後に、「なんでこんな人と結婚してしまったのだろうか?」と後悔することが多いという。

 それでも自分の産んだ子供は夫の何千倍もかわいく、いとおしい。特に男の子を溺愛する母親は多い。

 そんな家庭事情が関係するのかどうか。うつ病の原因は表面的には会社や仕事、人間関係ストレスと言われるが、母親の死が発症のきっかけになることもある。50歳独身男性の例を紹介する。

 ◇母親の死で訪れた「独りぼっち」の喪失感

 男性は早くに父親を亡くし、母親と2人暮らしを続けていた。夫を早くに亡くした母親が同居するパターンはよくある。息子にとって、母親は身の回りの世話を文句も言わずにやってくれる存在だ。だから、あえてストレスの多い結婚を選ぶ必要がなかったと言えるかもしれない。

 母親にとっても、かわいい息子がいつもそばにいてくれるのだから安心。むしろ夫の早逝が幸いしたかもしれない。こうして母、息子の甘い同居生活が続き、結婚して家を出ることはなかった。そして息子が50歳を過ぎたころ、母親の寿命が尽きた。母親との快適な同居生活に終止符が打たれたのである。

 そうなると、男性にとって食事や掃除、洗濯などの家事は重荷である。それ以上に、しゃべる相手を失ったことが痛手だった。女性との縁が少なかった男性の多くは内気で恥ずかしがり屋だ。自分から積極的に話し相手を見つけることも難しい。孤独感が募り、次第に精神的に不安定になっていった。

 昨年亡くなった野際陽子さんが息子を溺愛する母親を、佐野史郎さんがマザコンの息子「冬彦さん」を演じたテレビドラマ「ずっとあなたが好きだった」(TBS、1992年)が話題になって、26年がたった。もしも冬彦さんが実在したなら、彼はちょうど母親を失い、人生の後半を迎えるころである。時代を先取りしたドラマだったが、冬彦さんのその後を想像するとこの男性の姿と重なる。

 冬彦さんはドラマ終盤で妻(賀来千香子さん)と離婚し、自分を溺愛する母親を刺してしまう。妻は自分を助けてくれた元恋人と新たな人生を歩む。

 おそらく、罪を償ったあとの冬彦さんは結婚相手を見つけることなく、母とひっそり暮らしながら年を重ねたのではないか。母親は次第に高齢となり、やがて自分の元を去る。母が認知症などになれば、がんばって介護をするだろうが、そのがんばりも母の死で必要なくなる。

 ◇50歳以上の男性の4人に1人が独身に

 50歳までに一度も結婚したことがない人の割合を示す「生涯未婚率」は年々上昇している。国立社会保障・人口問題研究所によると、2015年は男性23%、女性14%だった。50歳以上の男性のおよそ4人に1人、女性の7人に1人が「結婚せず」という社会が訪れたのだ。もちろん意識して結婚を選ばなかった人、事実婚の人、1人で暮らすことを選んだ人など、生き方はさまざまあっただろう。

 その中で、結婚したくてもできず、親と暮らし続けてきた人が、親の死で1人取り残された時、その喪失感がうつ病につながる可能性は否定できない。社会には今、家族やコミュニティーから切り離され、1人で生きる人がたくさんいる。

 男性であっても女性であっても、今後1人で生きていくなら、そしてもし、親がまだ生きているなら、今からでも遅くない。職場や地域、趣味の集まりで友人や知人を増やすなどの「親ロス」対策をしておいた方がいい。1人で生きるには、残りの人生はあまりに長いから。

毎日新聞 2018/2/25(日) 9:30
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180225-00000014-mai-soci

★1が立った時間 2018/02/25(日) 14:36:51.79
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