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欲は最も其の強大なる者であるが、かく幾多の欲を人は有する。欲は物に
よつて始めて満足される。故に欲は物の世界を対象とする。物を得るには
生産しなければならぬ。生産するには誠を要す。誠を以て物を生産し、己
の欲に奉ずるは王道であり、誠それ自身は大観すれば楽しみであるが、単
なる楽しみを以つて終始する者ではない、必ず労苦を伴ふのである。人は
労苦を厭うて心身の安佚を欲する。故に他人に苦労させ、生産させておい
て、己は安佚し他人に生産させた物を獲得せんとする。所謂他人の腰で相
撲を取らうとする。是人欲である。甲利乙損である。甲乙倶に利する王道
でない。又交換の場合に於ても己は代償物を出さずして目的物を得んとす
る。又己一人誠を以て物を生産しても、かくして生産される物には限があ
る。欲には限がない。(不饜性の事は一六二頁を参照)有限の生産物を以