0001アルカリ性寝屋川市民 ★
2018/04/01(日) 20:24:36.87ID:CAP_USER9凱旋門はフランスの近代史をつぶさに見てきた生き証人(人ではないが)でもある。
ナポレオン失脚後、ルイ・フィリップ一世を擁するオルレアン朝(フランス最後の王政)を最後を見届け、第一次世界大戦では異国の地で戦った兵士達を暖かく迎え、そして第二次世界大戦では電撃戦の末にドイツ軍にハーケンクロイツを掲げさせる事を許し、それを良しとしないレジスタンスの勇者達のレゾンデートル(存在意義)として現代に至るまでパリっ子に愛され続けてきた。
◆フランスの誇り
2月23日、日付が変わる直前の23時55分。3台のパトカーに先導された高所作業車が凱旋門の前で止まった。作業者から降りた男女は凱旋門に向かって立ち、胸に手を当てて歌い始める。
「Allons enfants de la Patrie,Le jour de gloire est arrive !…」
フランス国歌、ラ・マルセイエーズだ。警察官達も交通誘導をしながら口ずさんでいる。歌い終わると日付が変わり2月24日午前0時。彼等の4時間の戦いが火蓋を切る。
「さあ、始めようかシモーヌ」「了解、社長」と軽くハイタッチをしてそれぞれの持ち場に着く、建造物診断技師のガッセルキー・ボンヌさんと、オペレーターのシモーヌ・ルポーさん。パリに1つしかない建造物診断を行うUn mensonge社の社長と右腕だ。
高所作業車のバケット(籠)に乗り込むと、ルポーさんの鮮やかな操作によってクレーンが伸びていく。「誰にでも出来るのよ。クレーンを伸ばして、バケットを回転させるだけだもの(笑)」とルポーさんは笑うが、ボンヌさんは真面目に「シモーヌは僕が指示をしなくてもどこで止めれば良いのかを解っているからね」と彼女に対する全幅の信頼が伺える。
凱旋門の内側上部には見事な装飾が施されている。そこにボンヌさんがセンサーを当てる。
「昔はこれ(点検ハンマー)で叩いて点検していたんだよ。そりゃあ気を使ったさ、僕のハンマー捌き一つでフランスの誇りに傷がつくんだ。でも今は楽になったね、当てるだけだから(笑)」こちらを見ながら至る所にセンサーを当てていく。そのセンサーから延びるコードがノートPCに繋がる。「その分私は忙しいけどね(笑)」そのディスプレイに目を向けながらバケットを操作するルポーさんは忙しそうだ。
◆原因は銃弾
作業開始から2時間、ボンヌさんの手がハンマーに伸びる。コツッ、コツッと鈍い音が凱旋門の内部に反響する。
「中に罅(ひび)があるの」ルポーさんがPCを私に向けた。「こうして何もない所だと細いラインで太さが揃ってるでしょ?でも、中に罅があると…ほらね、解るでしょ?」ルポーさんがセンサーを当てると太くなったり、細くなったり。「まあ、今すぐにどうこうって傷じゃあないんだけどね」
ここで私に疑問が湧き上がる。何故内部の天井にこんな罅が?答えは歴史の中にあった。
「君達日本の人にはピンと来ないだろうけど、ここは何度も戦場になったんだ。革命軍と国王軍、ドイツ軍とレジスタンスのね。天井は装飾がしやすいように柔らかい材質の石を使ってるから、銃弾が中に入り込んで内部に罅を作ったって訳」
◆思いは世界共通
午前4時、シャンゼリゼを行きかうトラックが多くなってきた。シャルル・ド・ゴール空港は3時頃が貨物便のラッシュアワーで、その荷物を積んだトラックがフランス各地に向かうのだ。
作業が終わり、4時間ぶりに地上に降りた。別件の取材で時差ボケを解消してきた私は何度あくびをしたか解らない。2人とも嫌な顔一つせずに取材させて頂き、恐縮の至りである。
こんな真夜中に大変な仕事ですね、嫌になったりしたことは無いんですか?そんな愚問にボンヌさんは最高の笑顔で答えてくれた。
「君達の国の姫路城だってついこの前まで大規模な修理をしていたじゃないか。後世に残したいものだから、きっちりと点検する。ちゃんと直す。それだけ(笑)」
職人魂、古今東西を問わず。汗顔の至りであった。
診断メーカー 2018/04/01 0:00
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