10分1000円のヘアカット専門店「QBハウス」を運営するキュービーネットホールディングスが東証1部に上場したが、公開価格を6%も下回るという厳しい船出となった。

 株価下落の直接的な原因は、投資ファンド主導の案件で、巨額ののれん代が重くのしかかっていることだが、それだけが理由ではない。

 QBハウスは10分1000円で洗髪なしというお手軽なヘアカット・サービスで知られる。当初は、時間を節約したいビジネスマンや外国人などを中心に利用者数を伸ばしてきたが、その後、同社の認知度が高まるにつれて、女性客も来店するようになり、客層が広がってきた。

 2017年6月時点におけるQBハウスの国内店舗数は532店舗、女性客を意識した単価の高い「FaSS」の店舗は10店舗、海外は117店舗となっている。フランチャイズによる店舗もあるが、多くは同社が直接運営する直営店だ。

 10分1000円のヘアカット・サービスは以前からよく知られていたことを考えると、もっと前に上場していてもよさそうなものである。実際、同社には上場の噂があったが、資本構成が何度も変わるなど経営体制が安定しなかった。

 QBハウスは、創業者である小西国義氏が1995年に前身となる企業を設立し、1996年に第1号店をオープンさせた。その後、順調に店舗数を伸ばしたが、2006年にオリックスが同社を丸ごと買収している。この買収は創業者から株式の譲渡を受けたものであり、当初はオリックス主導での上場が検討されていた可能性が高い。

 だが、オリックスは2010年に保有する株式をベンチャーキャピタルのジャフコに売却。今度は投資ファンドのインテグラルが2014年に同社を買収し、インテグラル主導でようやく上場にこぎ着けた。

 一連の買収は、買収先企業の資産やキャッシュフローを担保に資金を借り入れるLBO(レバレッジド・バイアウト)の手法を使って行われているが、これが上場後の株価を重くしている最大の原因である。

 同社のバランスシート(貸借対照表)には、150億円という巨額ののれん代と、125億円の借入金が計上されている。

 (のれん代とは、企業の買収の際に支払った金額と純資産の差額のことを指すが、この買収にはLBOの手法が使われているので、当該のれん代は自身の買収に使われた分と考えることができる)。

 同社の資産総額は約240億円なので、のれん代は資産のうちかなりの割合を占める。

 2017年6月期の売上高は約180億円しかなく、売上高に近い規模ののれんを抱えた状態で、負債を返済しながら事業を展開しなければならない。ローンは複数の契約になっているが、基本的に年間7億円の返済を続ける必要があり、2021年には95億円の一括返済が待っている。

 事業から生み出すことができるキャッシュフローは年間20億円程度しかなく、この中から事業展開に必要な投資資金を捻出してしまうと、返済に回せる資金はそれほど多くない。2021年の一括返済の際には、何らかのファイナンスが必要となるだろう。

 同社に対する縛りはそれだけではない。銀行との間でかなり厳しい財務契約が締結されており、2期連続の赤字や自己資本比率の低下など、当初の条件をクリアしない場合、銀行から一括返済を迫られる可能性もある。

 ここまで厳しい融資条件が設定されているのは、銀行が負うリスクが大きいからである。

 LBOは投資先の資産や収益を担保に銀行から資金を借り入れる手法なので、投資ファンドは株式を取得する部分のリスクだけを負えばよい。買収資金の大半は銀行が提供していることから、銀行は厳しい条件を設定せざるを得ない。

 また投資ファンド側にも事情がある。上場申請時点で、同社の株式の約9割以上を投資ファンドのインテグラルが保有しており、同社は完全に投資ファンドの所有物だった。しかも、インテグラルは上場と同時に保有株式の大半を売却している。

 せっかく上場したにもかかわらず、同社が新規の資金調達を実施しなかったのは、投資ファンドによる売却を最優先したからだろう。うがった見方をすれば、インテグラルは今後の同社の事業展開をあまり楽観視しておらず、株式の売却を急いだとも読める。もしそうなら、上場後の株価が冴えないのは当然の結果といえるかもしれない。

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