日本動物園水族館協会(JAZA)が国際的圧力に屈する形で加盟施設に和歌山県太地町(たいじちょう)で行われている追い込み漁によるイルカ入手を禁じた問題に絡み、新たに「京急油壺(あぶらつぼ〜マリンパーク」(神奈川県三浦市)がJAZAを退会したことが4日分かった。同施設は「今後ともイルカの展示を行うためにJAZAとの関係よりも太地との関係を重視した」としている。(小泉一敏)

■「イルカショー継続には太地町からの入手欠かせない」と判断

 平成27年5月にJAZAが、世界動物園水族館協会(WAZA)からの圧力を受け、追い込み漁からの入手を禁じて以降、JAZA加盟施設の退会が明らかになったのは6施設目。国際的反捕鯨の圧力に対する反発は根強く、今後も退会する施設が増える可能性もある。

 京急油壺マリンパークによると、施設では、太地町の追い込み漁で捕獲した7頭のイルカを飼育。繁殖も行われ、これまでに実際に3頭が生まれたが、すぐに死ぬなどしたという。

 このため、集客力のあるイルカショーなどを継続していくには太地からの入手は欠かせないと判断。追い込み漁からの入手を禁じるJAZAにとどまる利点は少ないとみて退会を決めたという。担当者は「ただちにイルカが必要だという状況ではないが、今後、安定的に入手するには退会が必要と判断した」と話す。

太地町のイルカの追い込み漁をめぐっては、WAZAが「残酷だ」として27年4月、JAZAに対し、改善しなければ除名すると一方的に通告。JAZAは翌5月に通告受け入れの是非を問う会員投票を実施した。その結果、会員数の多い動物園を中心にWAZAへの残留希望が多数を占め、JAZAは追い込み漁からの入手禁止を決定。施設でのイルカ確保策を繁殖中心に切り替える方針を示していた。

 ただ、地元太地町の町立くじらの博物館が伝統文化に反するなどとしてJAZAの方針に反発。27年9月に退会した。29年3月にも、新江ノ島水族館(神奈川県藤沢市)など4施設が相次いで退会している。

■「イルカ繁殖は困難」追い込み漁禁止への反発根強く

 世界動物園水族館協会(WAZA)の圧力を受け、日本動物園水族館協会(JAZA)が加盟施設に追い込み漁によるイルカの入手禁止を決定してから約3年。「京急油壺マリンパーク」のJAZA退会の決断は、JAZAが追い込み漁の代替として推し進める繁殖の難しさを改めて露呈した。また、反捕鯨の国際的圧力に防戦を強いられてきた不満も関係者の間には根強く、今後も退会が続く可能性がある。

 JAZAが推進する繁殖の技術は、数年で高められるようなものではなく、技術の蓄積が必要だとされている。また、仮に繁殖に成功したとしても、子供のイルカを育てるには、専用の設備が必要だ。設備がない施設では、目玉のショーを行うプールの使用を中断し環境を整える必要にも迫られるケースも想定される。

 このため、JAZAの追い込み漁によるイルカの入手禁止は、中小規模の施設にとっては「死活問題だ」(関係者)とされてきた。

 今回、JAZA退会を決断した京急油壺マリンパークも技術的な高い壁に阻まれてきたという。追い込み漁を行う和歌山県太地町の関係者は「何世代にもわたって遺伝的多様性を保ちながら繁殖を続けるには追い込み漁からの入手が必要になる」と訴える。

 国際的な反捕鯨の圧力に対する不満も漏れる。すでに退会した施設の関係者は退会後に不都合はないとした上で、「追い込み漁は国が認める合法的なものだ」として捕鯨文化を自ら否定するようなJAZAの態度に反発する。

 太地町では、追い込み漁で入手したイルカを使うなどし、遺伝的多様性を確保した湾内での大規模繁殖計画を進めるなど、新たな試みも始まっている。また、同じ追い込み漁を行うデンマークの自治領、フェロー諸島の町・クラクスビークとの姉妹都市協定を行うなど、反捕鯨に対抗しようとする動きも出ている。

 こうした中での京急油壺マリンパークのJAZA退会。関係者は「施設の事情にもよるが、今後もイルカの確保や伝統文化を守ろうとしてJAZA退会を選択する施設は出てくるのではないか」とみている。

2018.4.4 15:50
産経WEST
http://www.sankei.com/west/news/180404/wst1804040056-n1.html