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正社員になる機会は新卒時:日本特有の雇用システム

春、東京の地下鉄に乗っていると、季節の風物詩とでもいえるような光景を目にする。真新しいスーツを着て、真剣にスマートフォンや何かの資料を見つめている若者たちの姿だ。
それは3月に学校を一斉に卒業し、4月から会社で働き始めた入社一年目の若者だったりもする。だが、もっと初々しいのは、来年の入社を目指して就職活動に懸命に取り組んでいる現役の大学生たちである。
彼らが来ているスーツを日本では「リクルート・スーツ」という。色やデザインに目立った自己主張はない。自分が扱いやすい人間であるのを会社に証明するかのようである。
大学生が熱心かつ従順に就職活動に取り組むのには理由がある。卒業後の最初の就職がどうなるかによって、その後の人生は大きく左右されることが、よく知られているからだ。
背景には、日本特有の雇用システムがある。日本の企業は、学校卒業直後の若者を正社員として採用し、(特に男性について)長期に渡って育て上げるのが一般的と考えられてきた。会社に手厚く育てられた正社員の男性は、社内でのスキルアップに応じて収入も増える年功的な賃金を享受することができた。
ただ言い換えればそれは、新卒社員のために会社が用意したレールに乗れなかった人々には深刻な境遇が待っていることを意味する。正社員になる機会が新卒時に集中するため、そのチャンスを逃せば、その後に正社員になるのは容易でなく、仕事も生活も困難が続くことになる。
この点、昨今の人手不足が続く状況で就職活動を行っている学生は、本当にラッキーだ。就職活動に多少の緊張こそ覚えるものの、大量の求人が出ているため、思いがけず複数の会社から就職内定を得られたりする。夏にはリクル―トスーツをほとんどが脱ぎ捨て、学生最後の夏休みをエンジョイすることになるだろう。
しかしほんの10数年前は、人手不足とは正反対の状況に置かれた若者たちが大多数だった。不況で求人は限られ、どんなに就職活動をしても一社も内定が決まらない。働くことを諦め、就職活動をやめてしまう若者もいた。辛うじて採用が決まっても、不本意な就職先だったため、すぐに会社を辞めてしまう若者も多かった。
1990年代後半から2000年代前半の、日本経済が失われた10年と呼ばれた深刻な不況期に学校を卒業し、働くことに困難を極めた若者たちは「就職氷河期世代」と呼ばれた。就職氷河期世代も、今や30代後半から40代半ばの年齢に差しかかる。そして彼らは、現在もきわめて深刻な状況に置かれ続けている。
実質賃金は低下、収入増望めない構造に

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図1には、最終学歴が大学もしくは大学院の40〜44歳雇用者について、毎月得ている給料の平均水準の推移を示した。数値は物価水準の変化を考慮した実質賃金であり、各年の賃金が2015年時点でどれだけ価値を持っていたかを意味する。

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非正社員では結婚も難しく…
しかし氷河期世代でも、正社員としてそれなりの給料がもらえるなら、まだマシかもしれない。図2は、氷河期世代の男性の2002年の就業状態が、2015年にどのように変化したかを示したものだ。2002年には、不況で卒業後も非正社員で働いていた男性が18%程度いたが、そのうち約3人に1人は、2015年でも正社員になっていない。30代や40代で正社員になれなかった男性が、結婚し、子どもを持つことは、現在も日本では難しい。だから少子化にも歯止めがかからない。

中略

社会から孤立する「中高年ニート」:7040問題
中高年ニートは、社会から孤立し、「ひきこもり」状態になっていることも多い。20〜59歳の未婚無業者のうち、ふだんずっと一人でいるか、家族しか一緒にいる人のいない「孤立無業(SNEP)」と呼ばれる人々が増加していることをかつて指摘した。そこでは2001年に85万人だったSNEPが2011年には162万人へと2倍近く増えたことを述べた。最新の調査でも、2016年のSNEPは156万人と高止まっている。
このうちSNEPの年代別の推移を示したのが、図3だ。SNEPは20代が最も多いが、人手不足で若者の就職が改善したこともあって、2011年から2016年に大きく減少した。それに対し、40代のSNEPの増加が止まらない。その中には氷河期世代も多く含まれている。
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