毎日新聞 2018年5月17日 04時00分
アンケートは3〜4月、国立大全86校に書面で実施し、72校が回答(回答率83.7%)

政府が高等教育無償化の要件として、外部からの理事や実務経験のある教員の登用を増やすよう大学に求めていることについて、国立大の7割超が「反対」と考えていることが毎日新聞のアンケートで分かった。賛成は1割にとどまった。国立大は2004年度に法人化しているが、教育の機会均等をたてにした政府の干渉に反発が広がっていることが浮き彫りになった。

 高等教育無償化は、政府が昨年12月に閣議決定した「新しい経済政策パッケージ」の一環で、住民税非課税世帯の子の大学や専門学校などの授業料や入学金を政府が負担する。20年度実施予定。産業界のニーズを踏まえ、対象を「学問追究と実践的教育のバランスが取れている」大学などとし「外部人材の理事」や「実務経験のある教員による科目」を一定割合以上にするよう要件を設けた。

 アンケートは3〜4月、国立大全86校に書面で実施し、72校が回答(回答率83.7%)した。東京大など14校は回答しなかった。

 政府の掲げた要件に「反対」と答えたのは52校。「外部人材が必要なことは自覚しているが、無償化の要件とするのは筋が通らない」(弘前大)、「教育の機会均等と大学改革は別の課題」(千葉大)、「支離滅裂で議論に値しない」(電気通信大)など、無償化と外部人材登用との関連を疑問視する理由が目立った。

 また、「実務経験があり、大学教員として十分な業績を有する人材は非常に限られる」(岩手大)など、地方大を中心に人材確保を懸念する声が上がった。無償化の対象を限定することに対し、「入学者に対し非常に不公平」(和歌山大)、「結果的に学生が不利益を受ける可能性がある」(長崎大)との懸念も出た。

 一方、賛成したのは7校で、「基礎力と実践力は車の両輪」(岐阜大)などの意見があった。13校は賛否を明らかにしなかった。

 国立大学協会の山極寿一会長(京都大学長)は「大学の無償化と外部理事の登用とは無関係で、政府の意図が分からない。(京大では)既に経営協議会に外部人材を入れ、学外の意見を反映させている」と話した。無償化の具体的な要件は、文部科学省の専門家会議が6月までにまとめる予定。【伊藤奈々恵、阿部周一】

無償化の要件に対する主な意見【反対】

「理論的関連性が乏しい。同一に議論すること自体、ナンセンス」(筑波技術大)

「本末転倒。理事として活躍できる外部人材がどれほどいるかも疑問」(広島大)

「全ての大学に一律で求める方法は各大学の強み・特色を損なう」(山形大)

「実務教員の人数が増えることは、基盤的研究力の低下を加速する」(熊本大)

【賛成】

「閉塞(へいそく)した環境を打破するためには有効な手段の一つ」(室蘭工業大)

「幅広い知見が得られ、教育・研究両面で活性化が図られる」(京都工芸繊維大)

https://mainichi.jp/articles/20180517/k00/00m/040/162000c
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