全国的にアサリの漁獲量が減少する中、香川県内でも激減し、潮干狩りシーズンだが、干潟を訪れる人は少ない。

 瀬戸内海を浮遊するアサリの幼生の数自体は大きく減っておらず、浜辺などに着底しなくなったことが原因と考えられる。専門家らは再生に向け、新たな取り組みを進めているが、短期間で回復させるのは難しいという。

 「『今年はとれるかな』と期待して来たけど、全くとれない。瀬戸内海にはもうアサリはいないのかもしれない」。高松市屋島西町の干潟を訪れた40歳代の男性は熊手を掘る手を止めて、ため息をついた。

 ここは人気の潮干狩りスポット。以前は家族連れでにぎわっていたが、大型連休中にもかかわらず、この日は数人しかいなかった。1時間以上掘り、見つかったのは小さなアサリ3個という人もいた。

 アサリの研究をしている香川大農学部の一見和彦教授によると、同所では2007年に1平方メートルあたり1800個以上のアサリが見つかったが、08年から半分以下に激減。この10年間で全く回復せず、50個前後で推移しているという。2センチ以上の一般的な大きさのものはほとんど見つからない。

 県水産課によると、県内の他の干潟でもアサリはとれていないという。潮干狩りで有名な観音寺市の有明浜も同様で、観音寺漁業協同組合の担当者は「以前はアサリ漁をしていた人もいたが、成り立たなくなり、今はいない。有明浜では、小さいのが数個とれる程度だと聞いている」と話す。

 農林水産省の海面漁業生産統計調査によると、1990年代中頃までは、県内でも年間100トン近い漁獲があったが、00年頃から激減、昨年はゼロだった。県によると、アサリ漁をする人はいなくなったという。

 アサリのオスとメスがそれぞれ放精、放卵、受精後、孵化ふかして浮遊幼生が生まれる。2〜3週間、海中を漂って、干潟などすみやすい場所に着底し、成貝になる。香川大は、瀬戸内海の海水を摂取して幼生数を調査したが、沖合には相当数が生息しており、一部地域では親貝も確認できた。

 このため、浜辺にアサリがいない原因としては、近年の海水温上昇で、二枚貝を好んで食べる「ナルトビエイ」が県沿岸に生息するようになったことや、貝の餌となるプランクトンが減ったことなどが考えられるという。ただ、はっきりとした原因は解明できていない。

 アサリを取り戻すため、同大学は、さぬき市の鴨庄漁協と、川砂を入れた網袋を海中に置く方法を試している。袋に着底した幼生が網の中の砂で育つため、エイやヒトデなどの食害から保護できる。「瀬戸内海産アサリ」としてブランド化も視野に研究を進めているが、海域など条件によって、貝の育ち方にばらつきがあり、実用化には至っていない。

 一見教授は「県内の干潟は壊滅状態で回復の兆しは見えない。各地でアサリの不漁が進んでおり、根本的な原因を究明しなければ、アサリは全て養殖という時代がやってくるかもしれない」と危機感を募らせる。(猪股和也)

http://yomiuri.co.jp/eco/20180523-OYT1T50016.html