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さらにそうした自分について「相手のことを考えられない自分に対し、常に嫌悪感がありました。
しかしそれでも性への渇望感はやみませんでした。
次第に仕事や金銭管理がおろそかになり、女性との関係も破綻していきました。
するとその悲しみを埋めるため、また新たに性で支配できる相手を探す。その繰り返しだったのです」と明かしました。

津島さんは今、専門の治療プログラムを受け、一切の性行為を絶っていると言います。
「自分が病気だと認めて性行為を遠ざけることで、不思議と渇望は薄れ、穏やかに過ごせるようになりました。
私は犯罪にあたるような行為はしてこなかったつもりですが、
多くの女性を巻き込んで迷惑をかけてきたことは事実です。
病気を理由に過去の行為が許されるとは思いません。
ただこの経験を漫画に描くことで、同じ悩みを持つ人たちが依存症だと気づくきっかけを作りたいのです」と話しました。

■背景には虐待も…?
さらに取材を進めると、性依存症の原因のひとつに、性暴力被害があることもわかってきました。

大分県に住む工藤千恵さん(46)。
8歳の時に路上で男に連れ去られて性暴力を受け、いまは被害の苦しみを伝える活動をしています。

工藤さんは「私自身、被害を受けたことをきっかけに、性依存になったんです。
私の場合は、性暴力で心も身体も他人に支配された現実を上書きしたかったのか、
自分で自分の体を触ることがやめられなくなりました。
成人してからその衝動は男性に向かい、同時に複数の人と交際しても収まらないようになっていきました。
私のように性暴力被害を受けた後に自分の性行動で悩む女性は少なくないんです」と打ち明けました。

実は漫画の作者の津島さんも性的虐待を受けていた過去があり、
今後の連載でその経験についても描くつもりだといいます。

工藤さんは、衝動を受け止めてくれる夫と出会ったことで、自分をコントロールできるようになったと言います。
「こうした漫画を通じてもっと多くの人に性依存症のことを知ってもらうことが、
被害にあって生きづらさを感じている人への誤解や偏見の解消につながると思います」と話していました。

■性依存症にどう向き合うのか
性依存症の問題は、どのように理解し、解決していけばいいのか、
津島さんの漫画を監修する専門家に聞きました。
都内の精神科クリニックで性依存症の人を2000人以上診てきたという、
精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳さんです。

斉藤さんは「性行為は一定の年齢になれば誰でも行うことなので、
性依存症に陥るリスクは誰でも潜在的にあります。
家庭や仕事、恋愛関係でうまくいかず大きなストレスを抱えたとき、
それを性でしか解消できないと考えてしまう人が危険です。
また津島さんのように性的虐待がきっかけで『自分は性的なことでしか人に愛されない』と思い込み、
依存症になったという人も、私のクリニックには多く来ます」と話しました。

また、セクハラや痴漢、不倫問題などにも性依存症が疑われるケースがあるといいます。

斉藤さんは「依存症はよく『否認の病』と言われます。
自分が病気とは認めたくない、性のことなど人には相談できないと考えて、問題を長引かせてしまいます。
しかし依存症だと認めることができれば、家族への相談、専門の治療、自助グループへの参加など、
回復への道が広がります。そうなるためにこの病気が国内でももっと知られる必要があります。
単に性欲が強いだけという話と思わず、思い当たれば受診してほしいです」と話していました。

漫画の作者の津島さんも言うように、
性依存症であったとしても性行為の強要や犯罪が許されるわけではないと思います。
しかし悩みを誰にも打ち明けられずにいる依存症の人たちへの支援はもっと必要だと感じた取材でした。

NHK NEWS WEB
https://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2018_0529.html