遺族給付金の推移
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理不尽にも犯罪に巻き込まれてしまった被害者やその家族。世間は「犯人」を厳しく非難するが、被害者側の生活・経済支援について言及されることは少ないーー。

たとえば、名古屋市のインターネットカフェで5月17日に起きた殺人事件。亡くなった銀行員の男性(35)には、妊娠中の妻と2歳の長男がいたという。報道によると、容疑者の無職男性(22)は「誰でもいいから刺そうと思った」などと供述している。

弁護士を通じて、男性の妻が発表したコメントによると、1年ほど前に念願のマイホームを建て、今年8月には第二子が誕生する予定だという(東京新聞・5月20日)。希望に満ちた未来が一転してしまったことが分かる。

また、6月9日には、東海道新幹線の車内で殺人事件が発生。こちらも無差別殺人事件とみられ、容疑者の無職男性(22)は「誰でもよかった」と話しているという。

被害者の家族には、どの程度の保障があるのだろうか。犯罪被害者支援に取り組む鈴木優吾弁護士に現行制度の課題を聞いた。

●平均630万円と回収の見込みが薄い損害賠償くらいしか特別な保障はない

ーー「犯罪被害者等給付金支給法」(犯給法)という制度があるそうですが、どのくらいの給付があるのでしょうか?

被害者が不慮の死を遂げた場合、「遺族給付金」があります。犯罪被害者の収入とその生計維持関係遺族の人数に応じて算出した額(8歳未満の遺児がいる場合は、その年齢・人数に応じて加算)が、最低320万円、最高2964万5000円支払われます。ただし、2017年度の平均支給額は628万5000円です。

ーーなんでそんなに金額が低いのでしょうか?

犯給法の給付金は、他の公的給付がなされた場合には、減額される場合があるからです。

たとえば、厚生年金保険法、国民年金法などによる年金給付が支払われた場合に犯給法に基づく給付金が減額されることはありませんが、労災等の「災害補償関連法令」による遺族給付が支払われた場合には、犯給法に基づく給付金が調整のうえ減額されます。

また、被害者本人の収入や年齢、家族構成などによって変わりますが、民事訴訟をすれば、加害者に対して1億円を超える損害賠償請求が認められる可能性があります。ただし、賠償金を回収すると、犯給法による給付金が減額される場合があります。

とはいえ、これでも一昔前に比べたら増えた方ですし、今年4月からは8歳未満の遺児がいる場合は増額されやすくなりました。

●民事で勝訴しても、賠償金が得られないことは珍しくない

ーーそもそも民事で勝っても、回収できるものなんでしょうか?

加害者に対して民事上の損害賠償請求をする場合、たとえ勝訴したとしても、加害者側の資力不足のために被害者が全く賠償金を得られないこともあり得ます。

ーーこのほかに、遺族にはどんな保障があるのでしょう?

被害者が加入していれば、生命保険金が支払われるでしょう。また、名古屋のケースでは、家を建てたばかりということですが、団体信用生命保険に加入していれば、住宅ローン残額は本人に代わって生命保険会社が支払ってくれます。

ーーそれらの保障は、犯罪被害だけでなく、「病死」のときにも出ますよね。現状では、理不尽な形で命を落としても、平均630万円の遺族給付金と、回収の見込みが薄い加害者への民事裁判ぐらいしか、遺族への保障がないということですか?

そういうことになります。海外では、国が犯罪被害者に対して十分な経済的支援を行ったうえで、国が本人の損害賠償請求権を代位行使して、加害者に対して回収を図るという制度を採用しているところがあります。簡単に言えば、加害者が支払うべき賠償金を国がいったん肩代わりするというものです。

犯罪被害者は突如として犯罪に巻き込まれ、それに加えて経済的被害まで加わったらたまったものではありません。そのため、犯罪の被害に遭ってしまった場合には、せめて国が全面的に経済的支援をする、という制度を作っていただきたいと思います。

2018年06月11日 10時01分
弁護士ドットコムニュース
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