番組の取材中に起きた事件の映像が放送されなかった問題には、警察の協力を得て成立する「警察密着番組」であったことが背景にあると指摘されている。

 各地の警察活動にカメラが密着するドキュメンタリー番組は民放キー各局が放送しており、人気番組になっている。テレビ局が警察に企画を持ち込み、内容の交渉を経て実現している。警察にとっては現場の活動を国民に知ってもらうメリットがある。テレビ局側には、報道機関としての視点をどこまで確保できるかが課題になる。

 局関係者によると、こうした番組の制作は、報道部門でなくバラエティーなど娯楽番組を受け持つ部署が担当するのが通例だ。報道とバラエティーの両方の制作に関わった経験がある民放プロデューサーは「視聴率を稼ぐことが優先される民放にとって、警察密着番組は低予算で多くの視聴者を獲得できる人気番組。一方で公権力を監視する役割を担う放送局が、下手をすると警察のPR番組を作ってしまう危うさがある」と話す。

 このプロデューサーはこうも指摘する。「長く番組を制作していれば撮影中に事件処理を巡るトラブルに遭遇したり、警察が加害者になるケースに居合わせたりすることも起こりうる。その際にどう対応するかが問題だ。番組の性格によらず、テレビ局として犯罪を報じないことはあり得ない」

 元日本テレビ・ディレクターの水島宏明・上智大教授(ジャーナリズム論)は「警察密着番組は警察の全面協力の下に制作する弱みはあるが、事件が起きれば報道機関としての姿勢が問われる。TBSが撮影の事実も捜査機関に押収された経緯も公表していないのは強い違和感を覚える。権力へのチェックは報道機関の役割。『密着番組は警察べったり』と受け止められないために、番組の在り方を考える必要もあるだろう」と話した。