セレンについては,フェローでは【統計的に有意な影響を示さず】。





研究紹介:食物に含まれるメチル水銀とセレンの関係?
http://www.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/pdf/selenium.pdf
私達の研究室では,環境中に見いだされる様々な化学物質が人間に及ぼす影響について研究を行ってきた.
化学物質にはいろいろな種類があるが,人間への影響を考えた場合に重要な物質群として重金属を上げることができよう.
重金属の中にあって,メチル水銀は水俣病を引き起こした原因物質として知られている.
今日の日本で,半世紀前の水俣のような人的汚染が起こることはほとんど考えられないが,このような明らかな人的汚染がない場合にも,
メチル水銀は食物連鎖を通じて,連鎖の上位にいる動物種に蓄積する.その結果,海の生態系においては,
海棲のほ乳類や大型の回遊魚などがメチル水銀を蓄積していることが知られている.
妊娠している女性がこのようなほ乳類や魚類を「偏って大量に」食べた場合,そこに含まれるメチル水銀が胎児の発達に何らかの影響を及ぼす可能性については,
デンマークのフェロー諸島とインド洋のセイシェルの住民を対象に大規模なコホート調査が行われた.
日本の食品安全調査委員会によるリスク評価
www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20040723175にもこれらの調査の結果が反映されている.
食物連鎖を通じて蓄積されたメチル水銀の摂取による影響は,検出されたとしても軽微な神経影響であり,様々な要因によって影響の強さも修飾を受けると考えられる.
中でも栄養にかかわる要因として,不飽和脂肪酸やセレンが重視され,実験研究で保護作用が報告されている.
実際の人間の集団についての研究で,セレンについては,フェローでは統計的に有意な影響を示さず,セイシェルでは検討が予定されている段階である.
世界的な水準でみた場合,日本は魚を比較的多く摂取する国であり,相対的にメチル水銀の摂取量も多い.
最近になって,環境省の国立水俣病総合研究センターが,伝統的なクジラ漁を行っているT町で実施した調査では,
住民の毛髪中に平均的な日本人の値より高い水銀が検出された(同センターHPを参照:www.nimd.go.jp/kenkyu/report/20100427_taiji_report.html).
そこで,私たちの研究室は,『水銀高濃度地域における血中セレンの分布』というタイトルのもと,
同センターと共同研究の形で,同町住民における血液中のセレン分布について検討を行い,
明らかな人為的汚染とは異なる状況で摂取されたメチル水銀とセレンとの相互作用について解析を進める研究を開始した.
具体的には,血漿中のセレンをその化学形態によって分離し,毛髪中・血液中メチル水銀のレベルとの関連を検討する.
なお、この研究は国立水俣病総合研究センターを主体とする共同研究であり,
データの取扱については,同研究センターとT町との間で,結果発表の方法や時期については協議するが,
発表内容についてT町が関与することがない旨,確認文書が取り交わされており,東大の研究内容もこれに準ずる.
また,これとは別に東大医学系研究科の倫理委員会から承認を得て実施されている.
この研究について,不明な点,あるいはご質問がありましたら,下記に連絡をお願いいたします.
連絡先:研究責任者 渡辺知保