>>827

部長室に連れてくると龍雲は会釈もせず、のそりと黙って部長の前に立った。
 部長が型のように、
「司法大臣の命令に依って唯今より死刑を執行する」
 と申し渡すと、例のフフンと小馬鹿にしたようなせせら笑いを浮かべて、
「宜しく頼んますぜ」
と打ッ切棒に云ってから、そこにいた係官の顔をジロリと見渡すようにしたが、その特徴ある金壷眼にはこれっぽっちの恐怖の影もないようだった。
寧ろ何か憤ってでもいるように不気味にぎらぎら光っていた。
 絞首台へ歩いて行く様子も平気なものだった。その大胆不敵さには、私達も思わず黙って顔を見合わせた。
 大米龍雲は供物の饅頭も平気でむしゃむしゃと食って、茶もがぶがぶ飲んでしまうと、煙草を一本吸わせてくれと言い出した。
「死土産に一本久しぶりに吸わせてくれたっていいじゃねえか」
 仕様がないので、相談して特に二本許す事になって、火を点けて煙草を与えると、如何にもうまそうにぷかりぷかり落付いて吹かしていたが、急にほうり棄てて、
「永えこと吹わねえもんだから、畜生ッ、頭がクラクラしやがらア。さあ。やって貰おうか」
 係官が眼隠しをしようとすると、大米龍雲は頭を振って牛のように吠えた。
「止せやいッ。クタばっちまえばどうせ何も見えねえんだ」


…そうでもない