誰もが利用する大浴場の洗い場に、車椅子ごと入ってくる人を見かけたら、あなたはどう思うだろうか−−。愛知県西部の入浴施設で今年、「車椅子ごと大浴場に入りたい」と訴えた障害者の男性に、施設側は「車椅子は脱衣所まで」との見解を示した。障害者差別解消法(2016年施行)は民間事業者に対し、障害者からの要望には過重な負担にならない範囲で「合理的配慮」を提供することを努力義務とする。ただしどこまでの「配慮」が妥当なのか、線引きが難しいケースもある。入浴施設を例に考えた。【加藤沙波】

 「ちょっと待って、車椅子ではダメだよ」。3月、大浴場に入ろうとした名古屋市の会社員男性が、従業員に呼び止められた。男性は事故で両足を切断し、車椅子を利用する。一緒に来た長女(4)とともに裸のまま、従業員から「車椅子は脱衣所までと決まっている」と注意を受けると、男性は車椅子から降り、腕の力で体を支え浴場に向かった。

 男性は元パラリンピック選手で、腕力を生かし、自力で浴槽に入ることもできる。同施設には20年以上前から年に数回程度訪れ、いつも車椅子で浴場内に入っていたが、「脱衣所まで」との指摘は初めて受けたという。現在は「心のバリアフリー」の大切さを伝える講演活動もしており、施設側に対し「『ダメ』で終わるのではなく、何か折り合いをつけてもらえないのだろうか」と要望した。

 一方で施設側は「車椅子ごと浴場内まで入っていたとは今まで知らなかった」という。浴場内は通路の幅が狭い場所もあり、床は滑りやすい。介護関係の資格を持つ職員がいないため、車椅子から降りた人を支えるなどの行為をサービスとして行えないという。「施設改修は難しく、安全面や衛生面から認めることはできない」と責任者は言う。

 男性の希望で6月には施設が所在する自治体も交えて協議したが、両者の主張は平行線のままだった。自治体の担当者は「障害者だから、車椅子だからという理由で入浴を断っているわけではないが、要望を受けた以上、施設側も何ができるか考え、歩み寄る姿勢を示すべきだったのではないか」と話す。

 名古屋市の女性(30)も、車椅子のまま友人と銭湯の浴場に入ったところ、従業員から「車椅子は脱衣所まで」と言われた経験がある。説明に納得がいかなかったため銭湯側と話し合ったところ、後日、浴室用の車椅子が設置されたという。女性は「障害があっても、友達と遊びに行ったり、リフレッシュしたりしたい。意見を聞いてもらい、対応してもらえたことがうれしかった」と話す。

■施設ごとに対応異なる

 入浴施設で車椅子がどこまで乗り入れられるかは、施設ごとに対応が異なる。ホームページで「車椅子は脱衣所まで」と注意喚起する関東地方の銭湯は「『車椅子利用者=自立歩行ができない』ため、事故を防ぐことが目的」と説明する。九州地方の温泉は「基本的には脱衣所までとしているが、要望があれば他のお客さんにも理解してもらった上で大浴場まで応じている」。他にも「(大浴場での利用を)黙認せざるを得ない面もある」「建物が狭く、入店自体を控えてもらいたい」との声もあった。

 一方で愛知県は、多くの人が利用する施設を新築するなどの場合に、バリアフリー化しなければならないとする条例を定めている。100平方メートルを超える入浴施設の場合、一つ以上の浴場で車椅子が利用できるよう整備しなければならない。ただし実際に車椅子で浴場に入れるかどうかの運用は、施設の判断次第なのが現状だ。

 国連障害者権利委員の石川准・静岡県立大教授(社会学)は男性のケースについて「是非を判断しがたい問題」とした上で、「大事なのは、障害者差別解消法の基本方針でも示された『建設的対話』の姿勢だろう。『合理的配慮』がどういう方法なら可能か、両者で一緒に考え、共感し合うことで理解が生まれるのではないか」と話している。

毎日新聞 2018年8月9日 08時49分(最終更新 8月9日 11時23分)
https://mainichi.jp/articles/20180809/k00/00e/040/178000c

★1:2018/08/10(金) 05:44:05.15
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