海の近くまで急峻な山が迫る伊豆半島のまちが揺れている。人口約6万9千人の観光都市、静岡県伊東市。
八幡野は、その南東部にあり、南は東伊豆町と接する。伊豆高原を背に、豊かな海を持つ国内屈指の観光地だ。

ここに太陽光発電所の建設計画が持ち上がった。
計画の主体は韓国・ハンファグループの日本法人「ハンファエナジージャパン」(東京都港区、ハンファ)と太陽光関連事業会社「シリコンバンク」(東京都中央区)が出資して作った「伊豆メガソーラーパーク合同会社」。
事業面積約104・9ヘクタール(うちパネルが敷設される造成面積は約44・7ヘクタール)に及ぶ大規模なものだった。
関係者によると、伊豆メガソーラーパークが土地を取得したのは平成26年9月。平成29年になってから計画が徐々に伊東市民の間に漏れ伝わってきた。

同社が開発を予定していた伊雄山(いおやま)は、かつて日本航空の関連会社「日航商事」や伊東市の不動産会社「ダイヤ観光開発」などが所有。
ダイヤ社はゴルフ場開発を企図したものの、地元の反対やバブル崩壊で頓挫した経緯がある。
「伊豆高原メガソーラー訴訟を支援する会」代表の関川永子(ながこ)さん(50)は八幡野漁港から眼前に広がる伊雄山の山巓(さんてん)を見上げながら訴えた。
「大量の樹木を伐採し、太陽光発電施設を作ったら、大室山周辺の景観は、ソーラーパネルだらけになってしまいます」

これまでのところ、小野達也市長(55)は計画に反対の立場を取っている。
平成29年7月28日、伊豆メガソーラーパーク代表社員で、ハンファの朴聖龍社長を前に小野市長は「伊東市は年間観光客が1130万人に上り、土砂の崩壊・流出により、河川、海が汚染される恐れもある」として、白紙撤回を求めた。
伊豆半島の地形は独特だ。
海のそばまで急峻な山が迫っているため、大規模な太陽光発電施設を建設しようとすれば、急傾斜地に作らざるを得ないことが多くなる。

「太陽光発電所ができたら八幡野川を伝って海に土砂混じりの雨水がドッと流れてしまう」(関川さん)
いとう漁協八幡野地区理事を務める稲葉功さん(56)は「八幡野港沖は、イセエビ、アワビ、サザエの重要な漁場。
水質が汚濁されたら生活に直結する」と話す。
いとう漁協も高田充朗組合長らが平成29年7月、計画の白紙撤回を求め、小野市長と面会した。

ダイビングショップの関係者らも反対の声を上げた。
漁協や伊東市ダイバーズ協議会からなる「伊豆高原メガソーラーパーク発電所計画から海を守る会」代表の泉光幸さん(50)も「八幡野は国内でも屈指のダイビングスポットで全国から約1万5千の署名が集まった。
ハンファの計画では水質汚濁の懸念が払拭できない」として反対していく姿勢だ。

こうした声が後押しし、伊東市は今年6月、大規模太陽光発電所(メガソーラー)の開発を規制する新たな条例を制定した。
条例の主な内容は、太陽光パネルの設置面積が1万2千平方メートル(1・2ヘクタール)を超える事業について、市長は原則同意しない。
全国でも先進的な条例で、静岡県富士宮市がすでに制定している。

小野市長は5月31日の定例会見で「条例案は伊豆高原メガソーラーパーク発電所にも適用する」と明言。
しかし、7月2日、静岡県の川勝平太知事(70)は森林法に基づく林地開発の許可を出した。
大規模な伐採が可能になり、発電所建設は大きく実現性を帯びたことになる。

条例案を今回の伊豆高原メガソーラーパーク発電所の建設計画に適用すべきという声は地元に多く、小野市長は「条例は適用される」と明言。
川勝知事も「(条例が施行された)6月1日に工事は始まっていないと認識している」と述べた。
一方、伊豆メガソーラーパークは「2月に宅地造成法に基づく許可を得ており、工事に着手したと考える」と主張。
両者の主張は平行線のままだ。

こうした中、漁師やダイバーら計27人が、工事の仮差し止め処分を静岡地裁沼津支部に申し立てた。
関川さんらも8月末に工事差し止めなどの仮処分を同支部に申し立て、その後に伊東市の宅地造成許可取り消しを求める訴訟を起こす方針だ。
吉ヶ江治道弁護士は「八幡野のケースは住民の環境権と、業者の営業の自由とが衝突している。
条例の適用を遡及させることの是非、条例がどの時点で適用されるかが争点になる可能性がある」と話している。

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