【カイロ篠田航一】セクハラが社会問題となっているエジプトで、イスラム教スンニ派の最高権威機関アズハルがセクハラ行為について「自由や尊厳の侵害であり、イスラム法のハラーム(イスラム教で禁止の意味)にあたる」との声明を出した。国民の9割がイスラム教徒のエジプトで、宗教界が社会に警鐘を鳴らした格好だ。

 エジプトではセクハラを巡る口論がもとで殺人事件が起きるなど、深刻な社会問題になっている。

 地元メディアによると、北部アレクサンドリアの海岸で8月24日、女性に性的な言葉をかけた男と、女性の夫が口論になり、夫が刺殺される事件が発生した。

 また、首都カイロでは同月、バス停で男性から「お茶を飲もう」と声をかけられた女性が、男性の映像をインターネット上に公開。「しつこくつきまとわれたので撮影した」とする女性側と「つきまとっておらず、丁寧に誘った。セクハラではない」とする男性側の両方の意見を巡り、議論が起きている。

 こうした中、アズハルは8月下旬に出した声明で、女性の開放的な服装がセクハラを助長するといった男性側の論理も批判。「どのような状況でもセクハラは正当化できない」と強調した。

 カイロ在住の20代の女性は「エジプトで痴漢は日常茶飯事。以前、路上で痴漢を捕まえ、警察に突き出そうとしたが、周囲の人から止められた。法律が変わっても人の意識が変わらなければセクハラは続く」と話す。一方、タクシー運転手の男性(40)は「美しい女性に声をかけるのはむしろ礼儀だ。罪悪感はない」と開き直る。

 エジプトでは2011年の中東民主化要求運動「アラブの春」で、カイロ・タハリール広場の市民デモの際、女性が体を触られるなどの性犯罪が相次ぎ、取材中だった米国人女性記者がレイプされる事件も起きた。

 国連機関・UNウィメンなどの調査(13年)では、10〜35歳のエジプト人女性の99.3%が体を触られたり、性的な言葉をかけられたりするセクハラを経験したと回答。政府は14年、悪質なセクハラ行為に最高で禁錮5年と罰金5万エジプトポンド(約30万円)を科す法律を制定したが、効果は上がっていない。

毎日新聞 2018年9月14日 18時19分
https://mainichi.jp/articles/20180915/k00/00m/030/024000c