出産直後の病院でわが子を抱くルギャさん。おむつの取り換えや入浴なども積極的に行い、息子を溺愛していたという(再収容前に撮影。妻提供)
https://www.nishinippon.co.jp/import/anatoku/20180919/201809190001_000.jpg

 長崎県の大村入国管理センターに収容された外国人から、特命取材班に大量の手紙が届いた。長期収容が家族分断などの人権侵害を招いていると訴える。不法滞在など日本のルールを守れなかった彼らは自業自得という見方もできるが、法を犯しながら人手不足の産業を支えてきたという側面もある。政府は来春、単純労働分野を事実上、外国人に解禁する方針だが、こうした現状は変わるのか。

 届いたレターパックには手紙に加え、家族の写真が多く入っていた。「家族に会いたい」などとつづられ、妻や子どもの写真が何枚も添えられている。彼らの調べでは、大村入管にいる外国人約100人のうち44人に日本で生活する家族がいるという。

 ウガンダ人のルギャさん(39)もその一人。母国で反政府活動をしていたルギャさんは2005年、知人を頼って観光ビザで来日した。10年に不法滞在などで逮捕され退去強制命令を受けたが、「命の危険がある」として帰国を拒否。人権上の配慮から拘束が解かれる仮放免が11年に認められた後、松山市内で妻(46)と知り合った。

 結婚して子どもも生まれたが、ルギャさんに在留資格はない。息子の1歳の誕生日を控えた昨年6月、定期的な出頭で入管を訪れた際、仮放免の期限が切れたことなどを理由に、家族の前で再収容されたという。

 取材に応じた妻によると、ルギャさんは子どもをかわいがっていた。「息子は玄関の前で夫の帰りを待ったり、ベッドの下に隠れていないか捜したりしている。写真を見せると寂しくて火が付いたように泣く。3人で暮らしたいだけなのに…」と嘆いた。

       ■

 入管が「長期」とする半年以上の収容者は近年増えている。法務省はルギャさんのような再収容者が増え、仮放免が認められにくくなっているからと説明する。大村入管によると、3月末時点の収容者のうち、収容期間が1年以上に及ぶ者は64%に上る。

 日本に家族がいる場合、法務大臣の裁量で在留資格を特別に与える在留特別許可制度の対象になる可能性はある。ただ、偽装結婚も考慮しなければならない上に、永住や定住の資格を持ちながら犯罪を繰り返して在留資格を取り消された者もおり、「家族が日本にいるというだけでは難しい。退去強制命令を受けた外国人は原則、制度の枠外だ」と法務省の担当者は話す。

 日本人の妻がいるカメルーン人のブレイズさん(35)=福岡市=は、16年に在留特別許可を受けた。妻と結婚して5年、仮放免からも4年かかったという。その間は妻や妻の両親に経済的に支えられた。政治的迫害を恐れて来日し、不法滞在、不法就労になったブレイズさんは「日本で生活しようと思ったら働くしかない。犯罪した人たちと一緒にしてほしくない」

 記者が取材した大村入管の外国人の中には、農業や食品工場、建設業など人手不足といわれる産業に従事していた人も多い。不法就労という立場の弱さから低賃金で酷使されたり、ブローカーに搾取されたりしたと訴えた。

       ■

 30年までに700万人超の働き手が減るとされる。来春創設される外国人労働者の新たな在留資格の就労対象は、建設業や農業など20分野近くになる見通し。ルギャさんら母国を追われた外国人や出稼ぎ目的の外国人にとって、働きながら日本で暮らす道が開かれる。とはいえ、在留期間は5年に限定される。

 移住者と連帯する全国ネットワーク(東京)の山岸素子事務局長は「単純労働分野で働く外国人を国が正面から受け入れてこなかったために『非正規滞在』になった人は多い。彼らにも救済措置が必要だ」と指摘。「彼らを労働力でなく『人』として受け入れない限り、問題はなくならない」と話している。

西日本新聞 2018年09月19日 06時00分
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/anatoku/article/450676/