明石ダコとして知られる明石沖のマダコが記録的不漁となっている。市内5漁協で漁獲量が最も多い明石浦漁協(明石市岬町)では、ピークとなる7、8月に昨年比で4割以下に落ち込んだ。地元の水産団体は22年ぶりに子持ちダコを放流。近海ではタコ釣り禁止の協力も呼び掛ける。名物の「玉子焼(明石焼)」にもじわりと影響が出始めている。(小西隆久)
 マダコ漁は毎年7、8月ごろにピークとなり、年間漁獲量のほぼ半分を占めるが、今シーズンはあまりの不漁に出漁を見送る漁師が続出した。専門家は「昨年冬の水温低下が影響したのかも」と推測するが、はっきりとした原因は分かっていない。

 明石浦漁協では2017年の146トンに対し今年の7、8月は計51トン。漁場に最も近い東二見漁協(同市二見町)では昨年の5分の1近くまで減った。

 明石卸売市場によると、4〜8月のマダコ取扱量は昨年の半分の約65トン。市場関係者は「平均単価もやや高く、家庭の食卓に上がる機会が減ったのでは」と推測する。

 ご当地グルメの祭典「B−1グランプリ」で優勝した名物「玉子焼(明石焼)」への影響も懸念されている。同グランプリやイベントへの出展を担う「玉子焼ひろめ隊」隊長の古志利宗さん(43)は「ここ数年、慢性的に不足する中で、今年の不漁はかなりこたえる」と話す。

 需給調整のため、明石焼店では1年前に冷凍したタコを使う場合もあり、「来年以降、この不漁の影響が出るのでは」と予測。タコは世界的な和食ブームで欧州や中国での消費量が増えており、海外産が日本に輸入される量も減っているという。とはいえ玉子焼は、市民や観光客に手頃な価格が売り。「値上げは簡単でない」と嘆く。

 不漁の原因について、地元漁師たちは「昨年冬の冷え込みが厳しく、秋に生まれたばかりの子ダコが育ちにくい環境だったのでは」と推測。兵庫県立水産技術センター(明石市二見町)の長浜達章研究員(60)は「タコは変温動物なので水温低下で活動できなくなることはあるが、個体数減との関係はよく分からない」と話す。

 地元の東播磨底曳網漁業協議会(事務局・江井ケ島漁協)はタコ釣り愛好家らに対し、明石沖など一部の海域で禁漁への協力を呼び掛けている。

【マダコ成育寒さ大敵 22年ぶり“子持ち”放流】

 明石市の漁師の間でマダコの不漁といえば、1963(昭和38)年の「三八(サンパチ)冷害」による被害が今でも語り草となっている。

 明石市史には「寒さに弱いタコが明石の海でほぼ死に絶え、大きな打撃を受けた」と記載されている。兵庫県などが中心となり、別の地域で捕ったタコを明石沖に放流したが、多くの漁業者が出稼ぎに出たり、ノリ養殖を始めたりする契機になったとされる。

 今回の不漁も海水温の低さが影響したとみられる。県立水産技術センターによると、昨冬の漁場付近の海水温は前年より2〜3度低かった。

 東播磨底曳網漁業協議会は9〜10月上旬に11回、計約440キロの子持ちダコを放流した。冷害の63年から、83年、96年に続く異例の措置で、足かけ56年で4回目。行政の補助なしに協議会が独自で実施するのは96年以来、22年ぶりという。

 漁師たちは出漁そのものを減らすなどし、マダコの資源管理にも努める。同協議会の竹本義美会長(60)は「今回はサンパチ冷害ほどの被害ではないが、資源確保のため、できる限りの努力をしたい」と話す。(小西隆久)

https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201810/sp/0011717746.shtml
子持ちを海にかえす漁師
https://i.kobe-np.co.jp/news/sougou/201810/img/b_11717748.jpg