揺らぐ「ブロッキング必須論」…注目の仮処分決定
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◆「訴訟費用が高額…」出版各社は及び腰

 例えば、8月5日には、インターネット上の権利侵害情報の削除などを数多く手がけている弁護士が連名で意見書を提出し、「CDN事業者からの配信を止めることが、現実的かつ実効的なレベルでの海賊版サイト対策」「CDN事業者に対する送信防止措置を求める裁判・仮処分が可能」と指摘している。

 ところが、出版9団体で作る「出版広報センター」によると、出版各社はこれまでクラウドフレアに対して裁判所での手続きは講じてこなかったという。「削除や発信者情報の開示の要請は数え切れないほど行ってきたが、ほとんど応じてもらえなかった」と説明するが、それはあくまで「裁判外」のお願いベースの行動だった。「海外事業者に法的措置をとるとなると、費用が高額になるうえ手間もかかるので現実的ではない」というのが主な理由だ。今月、海賊版サイト対策検討会に事務局が示した「とりまとめ案」にも、「訴訟費用が極めて高額となる恐れがあるにもかかわらず、著作権者等にCDN事業者に対する国内外の差し止め請求を求めることは酷ではないか」「米国のように法務サービスの費用が高額な国の場合、高額の費用がかかる場合が多い」などと記されている。

◆高額?首をひねる「削除のプロ」

 しかし、ネット上の権利侵害情報の扱いがお手の物の、いわゆる「削除のプロ」の弁護士から見ると、なぜ権利者側がこれまでクラウドフレアに対する法的アクションを講じなかったのか、不思議でならないようだ。

 「削除」の第一人者で、先の意見書に名を連ねた神田知宏弁護士はこう首をひねる。「海外CDN事業者相手の訴訟でも、日本に管轄裁判所が認められる可能性が高いというのは、我々、削除の実務を手がける弁護士にとっては常識。日本で裁判ができるので費用も抑えられ、手続きも簡単だ」。今回、山岡弁護士が担当した事件では、供託の担保金を入れても、費用は30万円強だった。一般的な弁護士費用も20万〜50万円とされる。

 一方、海賊版サイト対策検討会の事務局のとりまとめ案では、「著作権法に基づく差し止め請求が認められるかどうかは疑問」といった消極的な意見も書かれている。これについても、やはり先の意見書の起案者の一人、壇俊光弁護士が異を唱える。「むしろ著作権侵害の場合、直接の権利侵害情報の発信者でなくても、侵害の主体として責任を認められる可能性がさらに高まるのでは」。これは、著作権に特有の「カラオケ法理」があるからだ。

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◆あらゆる手段を尽くしたのか

 ここで問題になってくるのは、今回の海賊版サイト対策で、本当に権利者側はあらゆる手段を尽くした上でブロッキング法制化を主張しているのか、という点だろう。


■ブロッキングと通信の秘密の関係
 ブロッキングとは、通信事業者がユーザーの同意を得ずに特定サイトに対するアクセスを遮断する行為。遮断のためには全ての通信についてアクセス先をチェックする必要があるため、全ユーザーの通信の秘密を侵害する。憲法では、通信の内容や宛先を第三者に知られたり、悪用されたり、漏らされたりしない「通信の秘密」の権利を保障しており、電気通信事業法は事業者に対して通信の秘密を侵してはならないと定め、厳しい罰則を設けている。


 私たち全てのユーザーのアクセス先を検知するブロッキングは、憲法の保障する「通信の秘密」を侵害する。インターネット上の知る権利や精神的自由に対する重大な制約になるため、その法制化の合憲性は慎重に判断される必要があり、以下のような4点の基準をすべて満たさなければ、違憲となる可能性が高いとされる。(1)具体的・実質的な立法事実に裏付けられ、(2)重要な公共的利益の達成を目的として、(3)目的達成手段が実質的に合理的な関連性を有し、(4)他に実効的な手段が存在しないか事実上困難な場合に限られる――の4点だが、CDNへの差し止めによって海賊版サイトの運営に壊滅的な打撃を与えることができるのだとすれば、(4)を満たしていないことは明らかだ。

 海賊版サイト検討会では、これまで、広告規制や検索結果表示の抑制、教育、フィルタリングの普及など既に様々な対策案が提唱されており、まだ試みてもいない段階では「他の手段が存在しない」とは言えず、違憲の疑いが払拭されていないと指摘されている。今回の仮処分命令は、こうした主張をさらに裏付けるものになるだろう。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181010-00010002-yomonline-sci&;p=2
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