中部国際空港(愛知県常滑市)は11日、米ボーイングの中型機「787」の展示を中心とした新しい複合商業施設「フライト・オブ・ドリームズ」の開業記念式典を開いた。ボーイングは787の初号機を寄贈するなど、新施設の開業を全面的に支援した。足元では日本市場で欧州エアバスがじわりと存在感を高めている。ボーイングは日本との「絆」を訴え、牙城を死守する構えだ。
「787は日米関係だけでなくボーイングと日本のすばらしい関係、パートナーシップの象徴だ」。駐日大使や地元政財界の有力者ら約300人が参列した式典であいさつしたボーイングジャパンのブレット・ゲリー社長は、日本との友好関係を繰り返し強調した。

12日に開業する新施設はボーイングの創業の地である米シアトルの街並みを再現し、シアトルの人気ブランドなどの飲食・物販店が入る。目玉となるのが、吹き抜けの空間に展示される787型の実機だ。しかも、ボーイングは初号機を寄贈した。ゲリー氏は「ボーイング社員にとって極めて特別の思いのある機体」と話した。
日本との固い絆を強調するボーイングだが、実際に787は日本との協業の成果で生まれた。787は三菱重工業や川崎重工業、SUBARUなど日本メーカーが機体構造の35%の生産を担う。東レは最先端素材の炭素繊維を供給する。

これらの部材は航空機産業が集積する中部で主に生産され、中部空港から「ドリームリフター」と呼ばれる専用貨物機でシアトルなどに輸送される。「初号機は中部空港に里帰りした。最もふさわしい場所に落ち着いた」(ゲリー氏)
特別な機体を寄贈するなど大盤振る舞いのボーイングだが、もちろん狙いは日本との関係の一段の強化だ。折しも牙城だった日本市場で最大のライバルのエアバスがANAホールディングス(HD)や日本航空などから航空機の受注を増やしている。

これまで日本の航空機市場はボーイングがほぼ独占していた。ところが、ANAHDは2016年に「A320neo」の運航を始め、19年春には2階建ての超大型機「A380」を就航させる予定。エアバスのANAHDからの受注残数(9月末)は、A320ne0や「A321neo」、A380などで合計22機となる。
日航も現在はエアバス機の運航はゼロだが、エアバス機の発注を始めた。中大型の「A350―900」や「A350―1000」など計31機を発注し、19年度から順次運航を始める予定だ。

ANAHDはエアバス機について「燃費性能が優れ、騒音が低く、国内空港の着陸料の低減効果を期待できる」と評価する。日航も「これまで特定の航空機メーカー・機種にこだわることなく選定を行ってきた」とし、高い安全性や長期使用に耐えうる機材品質、購入後のメーカーからのサポートや経済性などを総合的に勘案してエアバス機を選定したという。
世界の民間旅客機市場はボーイングとエアバスの2強が世界を二分する。例えば、アジア太平洋地域で運航される中・大型のワイドボディー(双通路機)市場シェア(4月末)では、エアバスが53%でわずかにボーイングを上回る。世界からみれば、特殊な日本市場だが、商品力を向上したエアバスの影響力が日本でも増してきている。
ライバルの攻勢に対し、ボーイングは最終消費者に直接ボーイングの魅力を訴え、共感を広げようとしている。機体でも大型機「777」の後継機の新型「777X」を近く就航する計画で、これ以上の台頭を抑えたい考え。華やかな新しい複合商業施設の開業の裏で、両社のつばぜり合いが激しくなっている。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36376160R11C18A0X13000/