2018年11月2日 朝刊
安倍政権で急拡大した米国製兵器の導入により、戦闘機など五種の兵器だけでも、向こう二十〜三十年間の維持整備費が二兆七千億円を超える防衛省の試算が明らかになった。そのあおりで国産を中心に、米国政府の対外有償軍事援助(FMS)以外で調達した兵器の維持整備費にしわ寄せが来ている。主力戦闘機ですら故障部品の修理が進まず、稼働率は大幅に低下。現場の自衛隊では、国産兵器の運用に危機感が広がっている。 (「税を追う」取材班)

 「航空自衛隊の維持整備は現状でも部品不足が累積し、借金まみれのような状態だ」。昨年八月まで空自の補給本部長を務めた尾上定正氏は、現場の窮状を厳しい表情で明かした。

 その一つに挙げたのが二百機を数える戦闘機F15。米企業とライセンス契約を結んだ国内最大手の三菱重工業が生産し、修理を手掛ける主力戦闘機だ。領空侵犯の恐れがある、他国の軍用機に対する緊急発進のほとんどを担うため、最優先で整備している。

 しかし、そのF15ですら部品の在庫が乏しく、すぐに修理・整備できないケースが相次ぐ。仕方なく、整備中のもう一機の部品を流用する「共食い整備」でやりくりしているという。

 「部品を流用された機体は飛べなくなるから、F15の稼働率は大幅に落ちている」と尾上氏。優先度の低い整備は後回しになりがちなため、将来のパイロットの育成に使う練習機「T4」などは、故障すると倉庫に置かれたままにされるのが現状だ。

空自がFMSで導入する最新鋭戦闘機「F35A」で既に配備されたのは九機。将来的に計四十二機に増える。「F35Aが増えるほど、それ以外の維持整備費は圧迫される。極端に言えば、F35A以外の空自の飛行機は動かなくなる」と尾上氏は懸念する。

 危機感は自衛隊全体に広がる。「自転車操業で運用上の問題は生じていないのか」。昨年十二月に防衛省で開かれた調達審議会で、有識者の一人が海上自衛隊の国産の哨戒ヘリコプター「SH60K」でも、いわゆる共食い整備が行われていると実態を取り上げた。

 「運用に影響を及ぼしている部隊もある」。当事者の防衛省側がそう認めざるを得ないほど、共食い整備の影響は深刻化している。

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