「介助付き」空の旅 高齢者が温泉旅行楽しむ
2018年11月3日 16時57分
高齢で体が不自由になったために空の旅を諦めていた人たちにも航空機を利用してもらおうと、搭乗の時間に余裕を持たせたり、介助の資格を持った人が対応に当たったりする特別なチャーター便が成田空港から運航しました。航空会社は、こうした便の運航は初めてではないかとしています。
このチャーター便は、体が不自由だったり搭乗手続きに不安を覚えたりして航空機の利用を諦めている高齢者にも空の旅を楽しんでもらおうと、大分県の温泉などを訪ねる1泊2日のツアーに合わせて日本航空が運航しました。
移動などに支援が必要な67歳から92歳の30人が、家族や介護担当者と共に成田空港に集まり、車いすなどで支援を受けながら航空機に乗り込みました。
離陸後は「サービス介助士」という資格を持つ客室乗務員が対応し、トイレに行くときに手を取って誘導したり薬をのむための水を配ったりしました。
参加した人たちは、薄味で柔らかい素材を使った機内食や体をほぐす体操でリラックスし、大分空港までの2時間を楽しんでいました。
都内に住む秋岡昭彦さん(87)は「久しぶりの飛行機でした。客室乗務員と会話もできました」と笑顔を見せていました。
日本航空によりますと、こうした便の運航は初めてではないかということで、大川順子副会長は「高齢者の旅行が当たり前になるような社会の実現を目指したい」と話していました。
80代夫婦 5年ぶり空の旅に笑顔
秋岡昭彦さん(87)と美紗さん(83)の夫婦は今回の搭乗を楽しみにしていました。
二人はともにダイビングが趣味で、昭彦さんが定年退職した直後はグアムや沖縄などを頻繁に訪れていました。
10年ほど前に昭彦さんの足が不自由になり、今では介助なしの外出は難しいほか、美紗さんも年齢を重ねて昭彦さんのサポートをできなくなったため、航空機を利用した旅行は諦めていたといいます。
今回は空港での手続きや歩行についての支援を受けられると聞いて5年ぶりの空の旅への挑戦を決めました。
大分空港に到着したあと昭彦さんは「久しぶりの航空機で楽しかった」と笑顔を見せ、美紗さんは「手続きに時間がかかるので迷惑をかけるのではないかと、航空機の利用をためらっていました。今回は手助けを受けられてよかった」と話していました。
高齢者福祉企業と航空会社 思惑が一致
今回の企画の背景には、高齢者の外出への意欲を維持したいというデイサービス関連の企業と、航空機の利用を増やしたいという航空会社の狙いがあります。
総務省がおととし、およそ20万人を対象に行った社会生活基本調査によりますと、国内で1年間に1泊2日以上の観光旅行をした人は20歳から24歳が最も多く、全体の61.1%に上りました。
しかし45歳以上になると50%を切り、70歳から74歳は43.3%、75歳以上になると28.3%にまで落ち込みます。
都内にあるデイサービスの運営会社によりますと、中でも航空機については高齢者が敬遠する傾向にあり、素早く動けないために乗り遅れないか不安、ほかの利用者に迷惑をかけたくない、などという声が上がるということです。
高齢者が積極的に外出し、健康を保っていくためにも、安心して旅行に出かけられる環境作りが大切だとして今回のツアーに協力することを決めました。
運営会社「早稲田エルダリーヘルス事業団」の服部孝大マネージャーは「高齢者の場合は行動範囲が狭まり、家に引きこもってしまうケースがある。旅行で遠出をすることはとても大切だ」と話していました。
また高齢化が進む中、日本航空は、お年寄りの呼び込みが今後の航空機の利用者増加に欠かせないと位置づけています。
今回のチャーター便の利用者にアンケート調査を行ったり専門家に話を聞いたりして、どのようなサービスを導入すれば高齢者が航空機を利用してくれるのか検討していきたいとしています。
日本航空の大川順子副会長は「細かい案内の方法など改善できる点もあると感じている。高齢者が利用しやすいような環境整備を進めていきたい」と話していました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181103/K10011697281_1811031652_1811031657_01_02.jpg