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つづき

●「セール販売をしない」から安く作れる仕組み

このようなハイクオリティな商品を、なぜ低価格で販売することができるのか。

土屋常務に尋ねたところ、海外の協力工場の大量生産によるコストダウンに加えて、ワークマンならではの利点があることを教えてくれた。

「一般的なアパレルメーカーはデザインが古くなるとすぐにセール販売をして無理矢理売ろうとするんです。
しかし、我々は取扱い商品があくまで機能性を重視した作業着。デザインが多少古くなったからといっても翌年もしっかり売れてくれます。

だからワークマンはセール販売に頼ることをしないから、その分の経費や手間を商品の価格に反映させて圧倒的な低価格商品を実現することができるんです」

ちなみにワークマンの4〜6月期の決算では売上高210億円に対して利益は30億円。約14%の利益率。これはユニクロの利益率13%にも匹敵する数字である。
この低価格で売ってもしっかりした利益が出せる価格競争力が、いずれ既存のアパレルメーカーの脅威の存在になっていくのではないかと想像してしまう。

もうひとつのワークマンの武器はネットの情報拡散力である。インフルエンサーの活用方法がとにかくうまいのだ。

先述した新店舗「ワークマンプラス」のららぽーと立川立飛店の場合、オープンに先駆けて著名なブロガーを招待して商品と店舗の発表会を開催。
会場ではスタッフがブロガーに対して丁寧に商品を説明し、試着や写真撮影に応じるだけではなく、気になる商品はレビューすることを条件に試用サンプルを提供するサービスも会場で行っていた。

渡された資料には商品情報をネットで投稿する際の販促手法や注意点なども記されており、この部分からもワークマンのネット販促のレベルの高さが伺える。

「今現在、ワークマンと取り引きがある有力ブロガーは50人ぐらいです。年に2回ほどインフルエンサーのブロガー向けの発表会を行っており、皆、ワークマンのことが好きで遠方からでも発表会に来てくれます」

しかし、ブログに書かれた記事だけで、商品がそこまで売れるものなのか。

「うちの商品開発部には生半可な性能や価格の商品は絶対に作らせません。だからダントツの商品しか市場に出さないんです。そこが話題性のフックとなり、ブログの一個の記事だけで情報が一気に拡散されて売れていくんです」

考えてみればZOZOもファッションコーディネータアプリ『WEAR』の情報拡散によって売上を伸ばした経緯がある。
もし、ワークマンによるネットの口コミ戦略が成功すれば、ネット上のアパレル販売の勢力図は大きく塗り変わってしまうかもしれない。

●ワークマンとユニクロの店舗数はすでにほぼ互角

ユニクロとワークマンでは取り扱っている商品も違うし、ZOZOとはビジネスモデルそのものが違う。
現実的に考えてこの2社にとってワークマンが脅威の存在になるということは考えにくい。
ましてアパレル業界全体ととらえれば、ワークマンが取り扱っている商品の主体は作業着。ファッション性の高いアパレル品には影響がないと考えるのが一般的である。

しかし、ワークマンがさらにアウトドアウエアやスポーツウエアの性能やデザインを洗練させていけばユニクロの屋台骨であるフリースの市場も食いかねない。
また、インフルエンサーやブロガーの囲い込みに成功すれば、ZOZOの有力なWEARのユーザーをも取り込まれてしまう可能性もゼロとは言い切れない。

「ワークマンのウエアはカッコいい」という流れに市場の潮目が変われば、それこそ形勢は一気に逆転する。
ワークマンの店舗数は全国826店舗。ユニクロの831店舗とほぼ互角。ここにZOZOのネット販売力が身につけば、既存のアパレルメーカーが太刀打ちできるはずがない。

取材の最後に土屋常務が言った言葉が印象深い。

「うちの会社は掲げた目標をクリアできなかったことが一度もないんです。マーケットでダントツのシェアと売上があるから、2位以下の会社の動向を気にしなくていいんです。
だから常に自分達の会社の目標達成だけに向かって突っ走れるし、どんなに時間がかかっても目標をクリアするために地道な努力することができるんです」

掲げた目標に向かってひたすら走り続けることができるしたたかな企業、ワークマン。いつの時代も伏兵によって市場はひっくり返るもの。
ワークマンには作業服業界を飛び出して思う存分にあばれて欲しいところである。 

記事終わり