一方のモスバーガーだが、マクドナルドが低迷していた2015年、苦しむガリバーを横目に“経営刷新”に成功している。
5月に値上げを実施し、売上を伸ばしたのだ。例えば看板商品のモスバーガーは340円から370円になった。

「値上げに備え、調理技術や接客スキルを上昇させるという万全の準備を整えていました。国産野菜を謳うメニューもマクドナルドとの差別化に寄与しました。
客数は98.9%と減少しますが、客単価は112.2%と伸び、売上高も111%と増加します。私は16年に櫻田厚会長(67)をインタビューしましたが、『値上げで客層が変わった。
祖父母、両親、孫たちの3世代が来てくれる店になった』と喜んでおられました。安全で安心なハンバーガーチェーンというブランドイメージを構築できたように思えました」(同・千葉氏)

ところが15年11月、アメリカの高級ハンバーガーチェーンのシェイクシャックが日本に上陸する。これまでにも個人店で“高級グルメバーガー”は人気を集めていた。
だがシェイクジャックは、15年1月にアメリカで株式上場を果たしたれっきとした企業。1店舗あたりの売上はマクドナルドの2倍という数字を誇る。

そのため日本進出が行われると、モスバーバーが従来持っていた「安全で安心。少し高いけれど、質の高いハンバーガー」というイメージが揺らいでしまう。
早い話、マクドナルドとモスの違いが消滅してしまったのだ。これを千葉氏は「モスバーガーの凡庸化」と指摘する。

ならば、マクドナルド、モスバーガー、シェイクシャックの価格帯を比較してみよう。バーガー類を対象とし、サイドメニューやドリンクは除外する。
まずは「500円〜1260円」という高価格帯だ。シェイクシャックが最も得意とするゾーンと言える。(※表1)

しかし、マクドナルドは「倍グラン クラブハウス」で、この価格帯にも割安感のある商品を用意しているのは、さすがだと言える。抜かりがない。
一方のモスバーガーは、スパイシーバーガーやダブルバーガーを揃えてはいる。
だが、結局は、モスバーガーが辛くなったり、パティが増えたに過ぎない。オリジナル性とインパクトの弱さが目立つ。

次は400円台だ。シェイクシャックは490円のホットドッグがあるだけで、これより安いバーガー類は用意されていない。さすがの高級路線だ。(※表2)

一方、「夜マック」の主戦場は、この価格帯になる。実はモスバーガーも「ダブル」を冠した商品が多い。どちらも基本的には似たことをやっているのだ。
しかし「100円で倍になる」という面白さと商品ラインナップの厚みで、マックが評価されていることが分かる。何しろモスの4品に対し、マックは11品だ。

300円台は、モスバーガーの主要商品がひしめくゾーンとなっている。だが、マクドナルドも通常の「レギュラーメニュー」がこの価格帯を占めているので、しっかりと対抗している。(※表3)

最後は100円から200円台だが、ここに商品を充実させているのはマクドナルドだけだ。(※表4)

結局、高価格帯にはシェイクシャックが君臨し、低価格帯にはマクドナルドが商品を揃えている。
サンドウィッチのように上と下を挟まれ、モスバーガーは高価格帯にも低価格帯にも活路を見いだせず、苦しんでいるように見える。

「モスバーガーは加盟店オーナーの高齢化に伴い、店舗数の減少にも悩まされています。
日本経済は人手不足で人材の取り合いですから、新規加盟店も思うようにオープンできていません。
櫻田厚会長は社長時代、2011年から全国47都道府県でタウンミーティングを実施し、顧客の要望に耳を傾けました。
その成果として、2012年の早朝営業強化による収益増と、16年の焼肉ライスバーガーの復活が挙げられます。
共に顧客からの要望が多かったものでした」(同・千葉氏)

結局のところ、マクドナルドのサラ・カサノバ社長も、モスバーガーの櫻田厚会長も、社長時代は現場と顧客の声に耳を傾けて成功を収めてきた。

2016年6月、櫻田厚氏は会長となり、新社長に中村栄輔氏(60)が就任した。
中村社長は82年に中央大学法学部を卒業し、司法試験の断念を経て、88年に入社。モスフードサービスでは主に法務畑を歩んできた。

食中毒問題で揺れるモスバーガーで今後、中村社長がどのような方法で現場や顧客の声に耳を傾けるのか、注目が集まっている。

週刊新潮WEB取材班