この地方では、今現在も連綿と続いていることであったか

「大阪の人は電車の中で、平気で子供に小便をさせる人種である、-------と、かう云つたらば
東京人は驚くだらうが、此れは嘘でも何でもない。事実私はさう云ふ光景を二度も見てゐる。
尤も市内電車ではなく、二度とも阪急電車であつたが、此の阪急が大阪附近の電車の中で
一番客種がいいと云ふに至つては、更に吃驚せざるを得ない。(中略)
二度目の時も矢張り満員の電車だつたと覚えてゐるが、それも女親が幼い子供に、
小便でなく糞をさせてゐた。念入りにも車台の床へ新聞紙を敷き、その上へさせてしまつてから、
今度は新聞紙を手で摘まみ上げ、お客の鼻先へ高々と翳して、雑踏の間を辛うじて分けながら、
窓の外へ捨てるのである。甚だ尾篭なお話で、東京人には恐縮であるが、
此方の人はこんな事を何とも思つてゐないらしい。」(p.63)
谷崎潤一郎「阪神見聞録」(『谷崎潤一郎全集』 第二十巻 東京 中央公論社, 昭和43年)