熊本刑務所(熊本市中央区)の受刑者が刑務作業で制作する肥後象がんが、
コンクールで表彰されるなど高い評価を得ている。技術力の高さは、
プロの象がん師も認めるほどで、同所が毎年1回開く全国の刑務作業品の
展示即売会「熊本矯正展」でも人気を集めている。
刑務作業は、受刑者に規則正しい生活を行わせることで勤労意欲の向上や、
社会復帰後の技能習得を図る目的。熊本刑務所では、約400人の
男性受刑者が肥後象がんのほか、家具や剣道防具、農業用一輪車などを
制作している。
同所によると、肥後象がんの制作は1988年に始まった。当初は
「現代の名工」で県指定無形文化財保持者の肥後象がん師、故田辺恒雄氏が
受刑者に直接指導。その技法は受刑者に代々継承され、現在は30〜70代の
男性4人がネクタイピンや刀の鍔[つば]、ペンダントなどを作っている。
受刑者は平日に1日約6時間作業。担当の男性看守は「集中して黙々と
取り組んでいる。自分たちでデザインを考えることがやる気につながって
いるようだ」と言う。昨年11月には九州の刑務作業製品の
製品開発コンクールで、熊本城や桜、龍虎などを描いた鍔3点が優秀賞を受賞した。
受賞作を手掛けた30代の受刑者は「作品を見て喜んでくれる人が
いるのはやりがいになる」と話す。田辺氏から直接指導を受けた70代の
受刑者は「やればやるほど奥が深い」と制作の難しさと魅力を口にする。
受刑者たちの作品について、プロの肥後象がん師の
関維一[つなかず]さん(77)=熊本市北区=は「素晴らしい出来栄え。
しっかりした技術があり、私たちの目から見てもレベルが高い」と評価する。
作品は所内でも販売しており、オーダーメードも受け付けるという。
熊本刑務所は「世間で途絶えた伝統工芸が刑務所で受け継がれている例も
ある。肥後象がんの技法もしっかりと継承するとともに、受刑者の更生に
役立てていきたい」としている。
熊本日日新聞朝刊掲載 社会部・前田晃志(2019年1月13日付)
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