同局で2006年から続くラジオドラマ「あ、安部礼司」(日曜午後5時)の関連イベント。主人公の安部礼司の名前は、「平均」を意味する英語「average(アベレージ)」に由来する。東京・神保町の中堅企業に勤務し、容姿も力量も人並みな平均社員という設定で、ユニークな上司や同僚に囲まれる職場や、2児の父としての家庭での様子をコメディータッチで描いている。
今回のイベントでは、ドラマの声優が特設ステージに登場し立体音響について講演。来場者はそれぞれ自身のスマートフォンで立体音響の新作ドラマにアクセスし、実際に体感した。
使用されたのは「7・1・4CH」と呼ばれる技術。12個のスピーカーを使って、音が前後左右や天井から聞こえることで臨場感を感じることができる。同局はイベント用に8分前後のミニドラマを3本制作。特殊な録音技術で収録したため、ヘッドホンやイヤホンでも立体的な音を体験できる。隣にいる登場人物が自分に話しかけてくるなどの設定のため、まるでドラマの世界に入ったかのような感覚が味わえる。この3作は2月3日から、番組サイト(https://www.tfm.co.jp/abe/)でも一般公開されている。
近年、ラジオ各局はリアルタイム放送に加え、インターネット配信にも力を入れている。全国の民放ラジオがパソコンやスマホで聴ける番組配信サービス「radiko(ラジコ)」の利用が広がり、1週間以内に放送された番組を聴き直せる「タイムフリー」機能も人気だ。こうした状況から、同局編成部の岡田啓輔さんは「イヤホンでラジオを聴く人が増える中、自由度の高い配信で立体音響を生かした独自のコンテンツを制作し、リスナーに楽しんでもらえるようにしたい」と期待する。同番組などを手がける制作部の高橋智彦プロデューサーは「今後は、この立体音響を番組本編に取り入れ、サブスクリプション(定額制)サービスでも聴けるようにしたい。ゆくゆくは、いつでもどこでも番組の世界に触れられる環境をつくるのが目標」と語った。
イベントでは他に、VRの体験コーナーも設置され、家族連れ客らでにぎわった。VRとは、英語の「virtual reality」の略。「ヘッドマウントディスプレー」と呼ばれるゴーグル型の端末を装着すると、目の前にコンピューターグラフィックス(CG)の映像や、実際の風景などの映像が広がり、仮想世界をあたかも現実世界のように体感できる技術だ。
今回は、係員の案内に従って機器をつけると、安部礼司が妻にプロポーズした場所や、上司の行きつけのバーといった番組に登場した場所が眼前に現れ、首の動きに合わせて周囲360度を見渡すことができる。付属のヘッドホンからは1分程度のショートストーリーも流れ、視覚と聴覚の両方でドラマを体感できる。
岡田さんは「最新技術によって、ドラマの世界へ入り込んだような『没入感』を堪能できるようになった。従来の放送と共にこうした新しいラジオの聴き方も広げていきたい」と話す。
https://mainichi.jp/articles/20190205/k00/00m/040/125000c