自転車が歩行者をはねて、死傷させる重大事故が後を絶たない。利用者には、マナーの向上に加えて、万が一の事故への備えが求められる。

 政府の有識者検討会が、自転車事故による損害賠償の在り方に関する議論を始めた。加入すべき自転車保険の補償内容や、加入義務化の是非を検討する。

 自転車は、環境に優しい交通手段として、一層の活用が期待されている。安全に対する利用者の意識向上は、その大前提だろう。

 自転車と歩行者の衝突事故は、年間約2500件に上る。若者が加害者となるケースが多い。

 スマートフォンを操作しながら片手で運転するなど、街頭では危険な走行が目立つ。教育現場での安全教育の徹底が欠かせない。

 近年、自転車事故で高額賠償を命じる判決が相次ぐ。神戸地裁は2013年、歩行中の女性をはねて重傷を負わせた小学生側に約9500万円の支払いを命じた。

 自転車は、子供から高齢者までが利用する身近な乗り物だ。誰もが加害者になり得る。それを頭に置いて運転する必要がある。

 事故を起こさないのが第一だが、起こしてしまった場合は、被害者への賠償問題に直面する。

 歩行者が死亡するか、重傷を負った17年の自転車事故299件のうち、自転車側で保険への加入が確認できたのは6割だった。被害者の中には、十分な補償を得られていない人もいるだろう。

 政府が、被害者救済の観点から検討を始めた意義は大きい。

 検討会は今後、自転車保険の加入促進を働きかける。全ての車に加入を義務付ける自動車損害賠償責任保険(自賠責)と異なり、自転車保険は任意加入だ。

 年間の掛け金は、一般的に数千円から約1万円で、相手に損害を与えた場合の補償額は最大数千万円から数億円まで幅がある。保険会社によって様々な商品があり、分かりにくいのも、加入率が上がらない一因ではないか。

 自転車保険への加入を義務付ける条例を制定する自治体が増えている。歓迎すべき動きだが、罰則を設けていないため、実効性の確保が課題だとされる。

 大阪府は、保険加入を府立高校での自転車通学の許可条件にしている。こうした事例は、加入率を向上させる参考になる。

 十分な救済を受けられない被害者をなくすことが大切だ。自動車と同様、全自転車を対象に保険加入を義務付けられるのか。それも重要な検討課題になるだろう。

https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20190209-OYT1T50267/