慶應義塾大学環境情報学部のパトリック・サベジ特任准教授、オックスフォード大学のハーヴェイ・ホワイトハウス教授、ピーター・フランソワ教授、コネチカット大学のピーター・トゥルチン教授らの国際共同研究グループは、「セシャット(Seshat)」と呼ばれる人類進化史に関する大規模データベースの構築とそのビッグデータ解析を行い、社会の複雑性の進化が原因となって、世界中の宗教や「神」の信仰が生み出された可能性を明らかにしました。本研究の成果は、英国の科学雑誌『Nature』誌に3 月 20 日(現地時間)に掲載されました。

 研究グループは、1 万年にわたる人類進化の歴史的記録データ(世界 400 以上の国家に関する 20 万件以上の歴史的記録データ)について、オープンアクセスのデータベースを構築し、セシャットと名付け世界に公開しました。また、なぜ人類が大規模かつ複雑な社会で互いに協力するように進化したのか、その科学的な検証を行うために、セシャットのビッグデータ解析を行いました。研究の結果、これまで唱えられていた既存の理論に反して、「神の信仰」(※1)は、「社会的複雑性」(※2)が進化した結果生まれたものであることが示されました。人類学者、歴史学者、考古学者、数学者、進化論者、コンピュータサイエンティストが共同して発見したこの成果は、ビッグデータ解析の発展が、人類進化の歴史や起源の解明に変革をもたらすことを示唆しています。



1.本研究のポイント
1 万年にわたる人類進化の歴史的記録データについて、大規模なオープンアクセスのデータベース「セシャット」を構築し、ビッグデータ解析を行った点。
神の宗教的信仰は、社会的複雑性の進化の結果であり、その原因ではないことを発見し、人類進化の歴史的起源に関する既存の理論を覆した点。

2.研究背景
 人類は、他の動物とは異なり、国家などの大規模な社会単位やグループを形成し、その中で互いに協力して生活することができます。これまで何世紀にもわたり、人類が大規模社会を形成する要因や因果関係について、宗教、農業、戦争等の観点から、様々な仮説や理論が提唱されてきました。その中でも有名なのは、「神の信仰」仮説です。これは、人々が「神」を信仰し、社会にとって協力的でない人々を「神」が罰すると信じることで、結果として人々が公正に協力し、大規模な社会が形成される、という仮説です。しかし、世界の歴史に関する定量的なビッグデータが存在しないために、この仮説で提唱された因果関係を科学的に検証することは困難でした。

 この問題を解決するため、研究グループは、2011 年にセシャットと呼ばれるオープンアクセスのデータベースを構築しました。セシャットは、世界の人類学者、歴史家、考古学者、科学者の専門知識を結集して構築された最先端のオープンアクセスデータベースであり、ユーザーフレンドリーなインターフェースを備えた点が特徴的です(http://seshatdatabank.info/data よりアクセス可能)。

3.研究内容・成果
 研究グループは世界何十もの地域の専門家と協力し、過去 1 万年の世界史上の 30 の地域にあった 414 の独立した政治的組織単位(※3)から、社会的複雑性と宗教的信仰、その実践に関する定量的データを集めました。社会的複雑性のデータには、人口の大きさ、領土、政府の水準、著述の有無などが含まれ、宗教的信仰のデータには、互恵、公正、忠誠に関する超自然的な信仰の存在、宗教的儀式(※4)の頻度などが含まれます。

 これらのデータを用いて、主成分分析、ロジスティック回帰分析、および時系列分析を含むさまざまな統計解析を行い、「神の信仰」仮説を検証しました。すると驚くべきことに、統計解析の結果は、「神の信仰」仮説に基づく因果予測と大きく矛盾していました。データが入手できたほぼ全ての世界地域において、神の信仰は社会的複雑さの増大に先行するのではなく、むしろ後続する傾向にあることが明らかになりました。さらに、宗教的儀式は、神の信仰が生まれる何百年も前に出現する傾向にありました。これらの結果は、宗教的儀式を通じた集団行動が、人々の協力関係を促し、大規模な人類社会を形成する要因となった可能性を示唆しています。

https://research-er.jp/articles/view/78282
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