https://www.nhk.or.jp/d-navi/2020/article_21.html

「エスカレーターでは歩かないで下さい」

去年12月からことし2月まで、JR東京駅の一部のエスカレーターでこんな呼びかけが行われました。

「あの東京駅でついに!」「なぜ今!?」JR東日本の当事者に、成果や課題を聞きました。

呼びかけが行われたのは・・・

JR東京駅の中央線と京葉線のホームに通じるエスカレーターの、あわせて6基で行われました。

期間は去年12月17日からことし2月1日までで、最初の5日間は職員が利用客に、「歩かず2列に並んで下さい」と呼びかけました。

その後も壁に「エスカレーターでは歩かないでください」と大きな看板を掲げるなどして、利用客に明確に「止まって乗る」ことを訴えたのです。
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正直、不安でした

今回の取り組みを企画したJR東日本東京支社サービス品質改革室の、副課長の富田郁朗さんと引地美香さんに話を聞きました。

富田さんは呼びかけをはじめた最初の5日間、朝8時から9時まで現場に立って人の流れを観察しました。
その結果、利用客が両側ともにほぼ止まっている状態が、1時間のうちにあわせて10分程度見られたそうです。
自然発生的に立ち止まる状況もあれば、2列乗車を促していた警備員が右側に止まることで発生したケースもあったそうです。

どういう人の流れになるのか、本当に協力してもらえるのか、正直、不安でした。片側空けは何十年もの間に根付いた習慣だけに、
変えることは容易ではないだろうと。それだけに変化の兆しを目の当たりにしたときは、驚きました。(富田さん)

「このままではいけない」

それにしてもなぜ今、このような呼びかけを行ったのか?JR東日本では、鉄道各社と協力して行うキャンペーンなどで、
エスカレーターの正しい乗り方をPRしてきました。

ただし「手すりにつかまって」という表現が中心でした。現状を変えることに対して、利用者の反発が予想されたからです。
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こうした中で社内ではこの課題について、去年3月から議論を積み重ねてきたそうです。

背景にあるのは現場で高まる「このままではいけない」という問題意識です。

そもそもエスカレーターの今の乗り方については、
1) 歩くことによる転倒・転落事故の防止
2) 片側空けによる、輸送効率の低下と乗り口付近の行列による混雑の解消
3) 右側に止まって乗りたい障害者などへの配慮

この3点から、見直す必要性があるとしています。

そして、現場は日々変化しています。例えば外国人観光客の急増。大きな荷物を持った観光客の姿が、ますます目立つようになっています。

「もし利用客がエスカレーターで歩く人が接触し、転倒や落下事故が起きたら、大きな怪我や事故につながりかねない」という懸念も高まり、
「歩かないで」という明確なメッセージを打ち出すことにしたのです。

反響はふだんの10倍

利用者はどう受け止めたのか。意見を受け付ける電話やネットの窓口には、啓発活動をきっかけにふだんの10倍ほどの意見などが寄せられたそうです。
賛成と反対の割合は、約7対3だったということです。

さらには「そもそもエスカレーターを1人乗りにしたら」とか、「広く一般に意見を募集してみてはどうか」などという提案も寄せられました。

これほどの反響があるとは、正直想像していませんでした。これまでのようにハレーションが起きないような遠回しな呼びかけでは、
長い年月をかけて根付いてしまった片側歩行について、利用者の間で考えるきっかけすら、つくれていなかったところはあったのかもしれません。
「止まってください」と明確に呼びかけたことで、安全で効率的な乗り方を実現していくためにはどうすればいいか、利用客自身が問題意識を持って
考えてくれるようになったことのあらわれだと思います(富田さん)