夜の政治
「なんでイチローの話が進まないんだ! 時間がないぞ」

 4月4日午後、官邸では幹部がイライラを募らせていた。「令和」初の国民栄誉賞を、3月下旬に引退した元プロ野球選手のイチローに授与することを真剣に検討していたからだ。官邸が意識していたのは、この夏に予定されている参議院議員選挙だ。

「参院選は改元後初の国政選挙だから、絶対に勝たなくてはいけない。そこで参院選前、東京五輪イベントなどを絡めて、イチローの国民栄誉賞はぜひともやりたいというのが、官邸の意向。とんでもない話題になりますからね。参院選のPRとしてはこれ以上ない。イチローさえOKだったら、いつでも、というスタンスでした」(官邸関係者)

 しかし、あっさりとイチローは辞退。翌5日、菅義偉官房長官が閣議後の記者会見で、授与検討の見送りを明らかにした。

「正直、官邸は誤算だったようです。イチローは引退会見で神戸は特別な街と語っていたので、授与式は神戸でとも考えていた。みんなガッカリだよ」(同)

 改元に絡んだ話題づくりに余念がない安倍政権。そもそも新元号の「令和」も官邸主導で決められたという疑念がぬぐえない。

 候補は「令和」「英弘」「広至」「久化」「万和」「万保」の六つとされる。9人の有識者から意見を聴く「元号に関する懇談会」でも令和を推す声が多く、すんなりと新元号が決まったようだが、その文字について首をひねる専門家は多い。

 東京大学史料編纂所の本郷和人教授はこう語った。

「『令和』以外の他の五つだったら、ケチのつけようがないくらいにいいと思いました。『英弘』は、『英』は英国を表すようになったのは幕末明治の時代からで、もとはエクセレント(優れている)という意味なんです。『広至』は広く行き届くの意味です。『令和』だけはダメなんです」

どこがダメなのか。

「『令』の字を見て、上司の顔が浮かびませんでしたか。『令』を漢和辞典で引くと、最初に出てくるのは“命令”。おきてや言いつけの意味。後に“よい”という意味が出てくる」

 さらに続ける。

「皇太子殿下は、『令旨』という言葉をご存じだろうと思います。皇太子の命令という意味で、天皇の意を受けた命令文書は『綸旨』。だから、『令』は天皇にふさわしくないのです」

 こうした意見を聴くと、最初から結論ありきで1日の発表まで進んだという印象がぬぐえない。実際、閣僚の一人は、こう明かす。

「令和が本命なのは、わかっていた。全閣僚会議で示した資料で令和は左端、英弘が右端です。英弘は、ひでひろなど名前として使われているので“落選”は誰の目にも明らか。令和で官邸はいきたいのだろうと容易に想像できた。11時半には発表で、論議している時間もない。最後は安倍首相一任となることはわかっている。結局、暗黙の了解で、令和で流れていった」

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