【速報】大崎事件 92歳女性の再審取り消し 最高裁で再審取り消し決定は初めて(14:43)
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(1) 事件の概要等
請求人は、昭和25年(1950年)3月、夫Aと結婚し、住所地において夫Aと共に農業に従事して
きたものであるが、Aは女6人、男4人の10人兄弟の長男にあたり、同人方に屋敷を接して同人の
実弟である二男B、四男Cがそれぞれ居住し、同じく農業に従事していた。
請求人は、夫Aが以前交通事故に遭って仕事も十分できない上、知能もやや劣ることから、
長男の嫁としてA家一族に関する事柄を取り仕切っていた。C(被害者)は、被告人によって
妻と離婚させられ、一緒になることを妨害されているとして請求人に反感を抱き、酒に酔っては
請求人を「打殺す」などと言って暴れ、一度は請求人方に押し掛けて入浴中の請求人を外まで
追い回したこともあって、請求人夫婦、義弟Bは日頃からCの存在を快く思っていなかった。
C(被害者)は、昭和54年(1979年)10月12日朝から酒に酔い、夕刻頃には路上の側溝の傍らに
酔いつぶれて寝そべっているところを発見され、近隣に住む同じ集落の者2名によってC方まで
連れ帰られたが、その後、姿を見せずに行方不明となり、同月15日にC方堆肥置き場において、
堆肥がかぶせられた状態で死体となって発見された。そのため、殺人、死体遺棄事件として
捜査が開始された。
請求人、A(請求人の夫)及びB(請求人の義弟)のほか、同月12日夜にC(被害者)を連れ帰った
集落の者らに対して、Cの行方不明を知った経緯やCを捜索した状況等に関する事情聴取が
実施されたところ、A及びBは、同月17日になって、Cの首にタオルを巻いてCを絞め殺し、その
死体を遺棄したことを自供したため、同月18日に両名とも逮捕された。そして、Cの死体遺棄に
加わったとされたD(Bの長男)も同月27日に逮捕され、また、A、B及びDの供述から請求人の
関与も明らかになったとして、同月30日、請求人が逮捕された。
その後、請求人、A及びBは殺人、死体遺棄の罪で、Dは死体遺棄の罪で、それぞれ鹿児島
地方裁判所に起訴された。 (2) 裁判の経過
請求人は、捜査段階から自己の関与を否定する供述をし、公判廷においても、「共謀及び殺害
行為に関与したことはない」旨を述べて、公訴事実を否認した。なお、公判廷において、E(Bの妻、
請求人の義妹)は、請求人がB(共犯者、請求人の義弟)に「C(被害者)さんをどうにかして
殺したいから加勢しろ。」と言い、Bが「ぶっ殺せば。」と返事をしたという証言をしている。
鹿児島地方裁判所(鹿児島地判昭55・3・31=確定判決)は、請求人が、昭和54年(1979年)
10月12日夜、夫のA(共犯者)及び義弟のB(共犯者)と共謀の上、A及びBと共に、義弟のC(被害者)の
頚部をタオルで絞め、窒息死させて殺害し、さらに、翌13日未明、Bの長男のD(死体遺棄についての
共犯者)を加えた4名で、Cの死体を遺棄した事実を認定し、請求人がCの殺害及び死体遺棄の犯行に
関与したことを認め、請求人に対して懲役10年に処する旨の判決を言い渡した。請求人は第一審判決
に対して控訴及び上告したが、いずれも棄却されて、同判決は確定した(福岡高宮崎支判昭55・10・14、
最判昭56・1・30)。
なお、確定判決では、本件犯行に至る経緯として、以下の事実が認定されている。C(被害者)は
昭和54年(1979年)10月12日、酒を飲んで外を出歩き、午後8時頃、酔いつぶれて溝に落ちているのを
部落の者に発見され、Cの近隣に住むF、Gの両名がCを同人方まで届けたが、同人は前後不覚の
状態であった上、着衣が濡れて下半身裸になっていたため、同人を土間に置いたまま帰った。
請求人は、Fから連絡を受け,同日午後9時頃,F方に行ってCの様子を聞き、Fらに迷惑をかけた
ことを謝ったりした後、午後10時30分頃、Gと帰宅する途中、Cの様子を見るため1人でC方に
立ち寄ったが、泥酔して土間に座り込んでいるCを認めるや同人に対する恨みが募り、この機会に
同人を殺害しようと決意し、義弟B、次いで夫Aに対し、共同してCを殺害しようと話を持ちかけ、
両名はいずれもこれを承諾した。
他方、公訴事実を認めていたA(請求人の夫)、B(請求人の義弟)及びD(Bの長男)については、
3名で併合審理され、鹿児島地方裁判所は、請求人に確定判決を言い渡したのと同日に、
Aを懲役8年、Bを懲役7年、Dを懲役1年にそれぞれ処する旨の判決を言い渡した。A、B及びDは
いずれも控訴せず、同判決は同年4月15日に確定した。 (3) 再審請求
請求人は、次のとおり、確定判決について、刑事訴訟法435条6号(無罪を言い渡すべきことが
明らかな証拠をあらたに発見したとき)による再審請求をした。
再審請求(第1次) 平成7年(1995年)4月19日
@ 請求審 鹿児島地決平14・3・26(再審開始決定)
A 即時抗告審 福岡高宮崎支決平16・12・9(原決定取消し、再審請求棄却)
B 特別抗告審 最決平18・1・30(特別抗告棄却)
上記@決定は、C(被害者)の死因についての新たな法医学鑑定等の証拠価値を認めて、
本件がAとBの自白以外の証拠によってどの程度支えられているかについても再検討する必要が
生じたなどとし、再審を開始する旨の決定をした。
上記A決定は、確定審の審理にC(被害者)の死因についての新たな法医学鑑定等の証拠が
加わっても、これらの鑑定の証拠価値は高くなく、A及びBの自白に基づく犯行態様や死因に疑いを
生じるとはいえないなどとし、さらに、客観的証拠やA、B及びDの自白に関する上記@決定の評価は
相当でないなどと判示して、再審開始決定を取り消した上、再審請求を棄却する旨の決定をした。
再審請求(第2次) 平成22年(2010年)8月30日
C 請求審 鹿児島地決平25・3・6(再審請求棄却)
D 即時抗告審 福岡高宮崎支決平26・7・15(即時抗告棄却)
E 特別抗告審 最決平27・2・2(特別抗告棄却)
上記D決定は、E(Bの妻、請求人の義妹)の確定第一審における証言(請求人がBにCの殺害を
持ち掛け共謀したのを目撃したとする供述)が信用でき、同証言がA、B及びDの各供述の信用性を
支えるものとしている。
再審請求(第3次)=本件再審請求
F 請求審 鹿児島地決平29・6・28(再審開始決定)
G 即時抗告審 福岡高宮崎支決平30・3・12(即時抗告棄却)
H 特別抗告審 最決令元・6・25(原決定及び原々決定取消し、再審請求棄却)
上記F決定は、(a) 供述心理の鑑定、(b) C(被害者)の死因についての新たな法医学鑑定の
証拠価値を認めて、再審を開始する旨の決定をした。もっとも、新たな法医学鑑定については、
C(被害者)の死因についての「旧鑑定(窒息死)の証明力を減殺させるだけの証明力が認められる」
とするにとどまる。
上記G決定は、上記(a)の供述心理の鑑定につき、その鑑定手法及び鑑定内容も不合理と
いわざるを得ないとして、明白性(無罪を言い渡すべきことが明らかな証拠であること)を否定した。
他方、上記(b)のC(被害者)の死因についての新たな法医学鑑定の証拠価値を高く評価し、
C(被害者)は、酔いつぶれていたのではなく、出血性ショックにより死亡し、あるいは瀕死の状態で
倒れていた可能性が相当程度に存在することになるなどとして、結論的に再審を開始する旨の
原決定を支持し、検察官の即時抗告を棄却した。 (4) 最高裁決定(>>1)
原決定(前記(3)G決定)が、新証拠として提出された供述心理の鑑定につき、明白性(無罪を
言い渡すべきことが明らかな証拠であること)を否定した判断については、是認することができる。
しかし、同決定が、新証拠として提出されたC(被害者)の死因についての法医学鑑定につき、
明白性(無罪を言い渡すべきことが明らかな証拠であること)を肯定した判断については、是認する
ことができない。
C(被害者)の遺体は腐敗しており、旧鑑定における解剖で収集された情報は極めて限定的で
あった。また、C(被害者)の死因についての新たな法医学鑑定において、法医学者は、遺体を
直接検分しておらず、解剖の際に撮影された12枚の写真からしか遺体の情報を得ることができて
いないから、その証明力にも限界があり、死因や死亡時期に関する認定に決定的な証明力を
有するものとまではいえない。
仮に、被害者が出血性ショックにより、自宅に到着する前に死亡し、あるいは瀕死の可能性がある
とすれば、遺体を堆肥に遺棄したのは最後に接触した近隣住民以外に想定しがたいことになる。
しかし、本件の証拠関係の下では想定できない。
共犯者とされた親族の自白(A、B、Dの自白)や目撃供述(Eの証言)は、相互に支え合っている
だけでなく、客観的状況からも支えられていること、C(被害者)の死因についての新たな法医学
鑑定が問題点を有し、証明力を有するものとまではいえないことも踏まえると、同鑑定により自白や
目撃供述に疑義が生じたということには無理がある。
以上を総合すると、原決定(前記(3)G決定)が、C(被害者)の死因についての新たな法医学
鑑定を根拠として、共犯者の自白の信用性に重大な疑義が生ずることになるなどとした点は、
鑑定の証明力の限界を十分に考慮しないまま、確定判決を支える証拠の証明力について吟味する
ことなく、鑑定を決定的な意味を持つ証拠であると過大に評価し、実質的な総合評価を行わずに
結論を導いたもので、不合理である。
以上の検討を踏まえると、法医学鑑定に供述心理の鑑定を含むその余の新証拠を併せ
考慮しても、確定判決の事実認定に合理的な疑いを抱かせるに足りるものとはいえない。
したがって、法医学鑑定が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たるとした原決定(前記(3)
G決定)の判断には違法があり、法医学鑑定と供述心理の鑑定がそのような証拠に当たるとした
原々決定(前記(3)F決定)の判断にも同様の違法がある。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています