※田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

■「政治的期待」を集める単騎出陣。全力疾走すれば人材・支持は集まってくる

(中略)

■立憲民主党政権より可能性あり?

 すでにこの連載で書いたが、選挙戦のまっただ中で、たまたま山本氏の街頭演説に出くわして、再び彼への関心が高まった。それは、彼自身というより、彼に期待する人たちがどんな人たちかが、よく分かったからだ。新宿に集まった大聴衆に二度もまれるうちに、ほとんどの人がごく普通の常識のある人たちだと理解したのだ。

「あんなこと、言わなきゃいいのに」と言いながらも拍手をする人。例の陛下への直訴状のことを囁(ささや)いている人たちが私のそばにもいたが、それでも一生懸命に拍手をしていた。今回の選挙で彼のこれまでの奇行をゆるしたとか、珍妙な選挙戦術が当たったということではないだろう。他の人や他の党に入れるよりはマシという要素が強かったとも思う。
 
しかし、参院選後、山本氏は大胆にも「次の衆院選に100人擁立する」とか「政権を獲る」とか言い出した。一見、突拍子もなく見えるが、現在の政治状況を正確に把握して確かな展望に立てば、まったくあり得ないことではない。野党第一党の立憲民主党が単独で政権を獲ることは至難の業だが、それよりも「山本太郎政権」のほうが可能性があるかもしれない。

■「政治的期待」を集めた“単騎出陣”の系譜

 30年にわたる平成史を振り返ると、突破力のある指導者が“単騎出陣”することで、短期間に、しかも大規模に「政治的期待」を集めたことが二度あった。

 一度目は93年の細川護熙氏であり、二度目は2017年の小池百合子さんだ。細川氏は一人で日本新党を立ち上げ、1年で首相まで駆け上がった。小池さんも一人で自民党に反旗を翻して東京都知事になり、小池ブームをつくって自民党を慌てさせた。

 私は、山本太郎氏が彼らの後を継いで、第三の人として「政治的期待」を集める可能性がないとは言えないと考えている。なぜか?

 理由は、細川ブーム、小池ブームの場合と異なり、与党、野党の政治基盤がともに弱体化しているからだ。山本氏の思想や戦略、あるいは彼の周りに集まる同志の質によっては、「政権獲得」を語っても、笑い話とは片付けられないであろう。

■基本的考えを共有する人を脇に置いて

 そのうえで、山本氏がするべきことが幾つかある。

 まず、憲法観や歴史認識を明確にすべきだ。その内容によっては、去る人もいるし、来る人もいる。だが、そうした大事なことをあいまいにしておいて、両者から支持を得ようとしても、いつか必ず行き詰まる。それは、あの爆発的だった小池ブームが驚くほど短期間でしぼんでしまったことでも分かる。

 そして、その基本的な考え方、思想を共有する学識のある人を2、3人でもいいから、脇におくことだ。その大事な初期段階で、意見の違う人と基本的なことで妥協するなら、指導者としての突破力や威信が急速に先細る恐れがある。

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