データやエビデンスなどの「ファクト」を振りかざして、人権や民主主義を攻撃する思想が勢力を増している。
その名も「インテレクチュアル・ダーク・ウェブ」。
ファクトを論拠にマウンティングする行為は、日常的にTwitter上などでも繰り広げられているが、欧米ではこれが、ネット上の“小競り合い”にとどまらない大きな勢力となりつつある。

このような一派をはじめとする「アンチ・リベラル」勢力の存在感の高まりを指摘するのは、文芸評論家の藤田直哉さんだ。
藤田さんは、「アンチ民主主義」的な考え方が勢いを増す中で、特に影響力を増しているものとして「暗黒啓蒙」と「インテレクチュアル・ダーク・ウェブ」を挙げた。
言葉を聞くだけでもおどろおどろしい雰囲気が漂う「暗黒啓蒙」についてまずは解説してもらった。

《「暗黒啓蒙」とは、民主主義に対抗する「新反動主義」の代表的論客であるニック・ランド氏がまとめた思想です。
一言で言うと、一部の優れた人間たちが民衆を支配し、民衆は奴隷のように生きるという、人権も民主主義もない暗黒主義の時代に戻ろうという思想です。
彼らは基本的に、科学技術と資本主義を発展させることこそが、世界にとって良いことだと考えています。
科学技術を加速させて、人類が人間を超えた超人となり、想像できないような世界が待っていることを期待している。
例えば、クローン人間を作るとか、遺伝子操作をする、脳を改造するなど、一見、突飛でSFっぽい雰囲気が漂いますが、そういうことを本気でやりたがっています。》

しかし、人権や民主主義を主張する人たちは、そうした考えを手放しには認めず、法律などで規制をかけようとする。
「だからリベラルを攻撃するんです」と藤田さん。

暗黒啓蒙の信奉者にとって、リベラルは進歩の足枷。
その思想を「大聖堂(カテドラル)」と呼び、ある種、古臭い考え方として敵対する。

《例えば民主主義社会では、公平・平等の理念に基づいて「富の再分配」が行われます。
お金持ちが稼いだお金は一定のルールに基づき分配される。
でも、そんなことをしていたら人類の進歩は遅れてしまう、というのが彼らの主張なのです。
一部の賢い人たちが世界を支配して、民衆はそれに従っていた方が世界は良くなる。
弱者の面倒を見るよりも、自分たちが理想とする社会を作る方に資源を投入したいと考えています。》

こうした、「暗黒啓蒙」の支持者は、「グローバルIT企業のトップやシリコンバレーの起業家たちに多い」のだという。
背景には、テクノロジーの進歩によって、国民国家を維持する必然性が薄れていることがあるという。

《科学技術が進歩することで国や人類全体が豊かになり、それを再分配することでみんなが平等に幸せになると信じられていた時代もありました。
戦後の「科学技術立国」として復興し発展していた頃の日本がそうです。
それに対して、グローバルに活躍する(シリコンバレーの)エリートたちにとって、ナショナリズムはむしろ不要な拘束だと感じられています。
もうひとつの変化もあります。
これまでは、科学技術の進歩は、人類の道徳的進歩とセットで考えられていました。
「民主主義」や「人権」は、理性を持った人間が「進歩」によって獲得してきたものだとされています。
「暗黒啓蒙」の特徴は、そのような科学技術の進歩と、道徳的な進歩の結びつきを切り離すところにあります》

Pay Palの創始者で、Facebookの有力投資家であり取締役でもあるIT長者のピーター・ティール氏もこの思想の有力な信奉者で、「源流のひとり」とも言われている。
見過ごせないほどの影響力を持った思想であることがわかる。
彼らが究極的に求めている世界観は、既存の秩序からの「解放」だ。

《科学技術が発展した先には、AIが人間の知能を超える技術的特異点、シンギュラリティを迎えるという考えがあります。
彼らが期待している世界というのは、そのさらに先の世界。
その次元にたどり着いた時に初めて人類は、既存の価値観、資本主義やテクノロジーといったものからも「解放」されると、信じているんですね。
逆に言えば、それを信じなければいけないほど、閉塞感があるようなんです。
背景にはインターネットへのちょっとした“期待外れ感”もあると思います。
その失望故に、期待が未来に繰り越されて、未来に起こる「とんでもないこと」に強い期待を抱くようになったのでしょう。

▽続きは下記のソースでご覧ください
https://www.huffingtonpost.jp/entry/intellectual-dark-web-fujita_jp_5d4105b6e4b0db8affb01dbb