福岡市・天神の高級ブランド「グッチ大丸福岡天神店」で、偽造クレジットカードを使って商品を盗んだとして、福岡県警がグッチ社員で中国籍の女とマレーシア国籍の男2人を逮捕した事件。訪日客増加に伴い、外国人による偽造カード関連事件の摘発数はここ5年で10倍に増えた。高級ブランド店などが訪日客対応にこぞって外国人店員を採用する中、店員が“グル”という犯行は「大胆かつ異例」(県警幹部)。専門家は「対策にも限界がある」と話す。

 「大丸のグッチに行け。事情を知った女がいる」「明日の○時にいる」

事件前、買い物客役のリー・ジャー・フイ(36)、パン・イ・ビン(20)の両容疑者に外国人仲介者からこんな連絡が入った。「女」はグッチ店員の王暁梅容疑者(46)のことだった。

 3人は7月18日正午すぎ、偽造カード2枚を使い、バッグなど3点(計37万円相当)を盗んだ疑いが持たれている。

 王容疑者は2016年4月から社員として働き、事件では接客と支払いを担当した。当初は否認したが、「報酬をもらった」と容疑を認めている。リーとパンの両容疑者は仲介者を通じて知り合い、パン容疑者が自分名義の偽造カードで買い物した。「マレーシアで渡された」と説明しているという。

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 安倍晋三政権のビザ緩和などで訪日客は増えている。九州でも外国人入国者数は昨年511万6289人と7年連続で過去最高を更新した。これと比例するように、全国で外国人による偽造カード事件は激増。摘発数は13年36件から18年341件に増え、中国人とマレーシア人が8割を占めた。県警は17年秋から31人を摘発した。

 福岡地裁で今月19日、同店で偽造カードを所持したとして、不正電磁的記録カード所持罪で、別のマレーシア国籍の女(31)が懲役1年6月、執行猶予3年の判決を受けた。会員制交流サイト(SNS)で「日本に行ってカードで買い物をする」との広告を見て応募、買い物額の5%という報酬にひかれたという。「犯罪に加担している認識はなく、子どもの病気で金が必要だった」と語った。

 捜査関係者は「二つの事件の構図は同じ。かなり組織的な犯行」とみる。外国人犯罪に詳しい兵庫県警OBの清水真さん(59)は「買い物客役は“切り子”と呼ばれる組織の末端。日本の特殊詐欺と似た仕組みでSNSを悪用しており、上層部にたどりつくのは難しい」と指摘する。

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 パン容疑者が使った偽造カードは磁気テープを読み取るタイプで、別人の個人情報が記録されていた。

 日本クレジット協会は偽造が難しいICチップ付きへの切り替えを目指す(昨年末時点IC化率82%)。岩田屋三越(福岡市)は4月、系列3店舗の全テナントにICカード対応の決済端末を導入。テナントとの間に「誠実な取引をする」との確認書も交わす。関係者は「テナントと店員を信じるしかない」と話す。

 訪日客問題に詳しいジャーナリストの姫田小夏さんは「中国人店員を増やすブランド店や百貨店の中には、中国語ができればいいと採用基準が甘い店もある。被害に遭っても保険金が支払われるため届け出ないケースもあり、事件は氷山の一角」と分析する。

 グッチの広報担当者は「外国人スタッフは増やしているが、現時点で採用や対応の変更は考えていない」とした。 (小川勝也、古川大二、森亮輔)

2019/9/22 6:00 西日本新聞
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