https://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/security/1216653.html

世界70カ国でSNSを介した組織的な世論操作――誰が行っているのか? 何を流布しているのか?

英オックスフォード大が調査結果を発表

山賀 正人2019年11月7日 06:00

 ソーシャルメディアを介した偽情報の拡散によって世論操作を行なっている政府や政党などの存在が国際的な問題ともなっている中、英オックスフォード大学はそのような組織的な世論操作の実態を調査した結果を「The Global Disinformation Order: 2019 Global Inventory of Organised Social Media Manipulation」として発表しました。調査は、ニュース記事の内容分析や公文書および科学報告書の文献レビュー、専門家による助言などをもとに行われています。


 ソーシャルメディアを使った世論操作については、本連載の2019年4月の記事でも触れているように中国やロシアによるものが広く知られていますが、今回の調査によれば、2019年の調査時点で世界70カ国で行われており、2017年の28カ国、2018年の48カ国から大きく増えているとのことです。なお、この70カ国の世論操作への関与の仕方はまちまちですが、最低でも1つの政党または政府機関が関与しているとしています。


(Samantha Bradshaw/University of Oxford、Philip N. Howard/University of Oxford「The Global Disinformation Order: 2019 Global Inventory of Organised Social Media Manipulation」より)
 ほかにも調査結果で注目すべき点としては以下の4点が挙げられています。

26カ国で、基本的人権の抑圧や政敵の信用失墜、反対意見のかき消しという3つの異なる方向で情報統制を行うツールとして使われている。

(Samantha Bradshaw/University of Oxford、Philip N. Howard/University of Oxford「The Global Disinformation Order: 2019 Global Inventory of Organised Social Media Manipulation」より)
他国への高度なプロパガンダを行なっているのは一握りであり、FacebookやTwitterが特定しているのは7カ国(中国、インド、イラン、パキスタン、ロシア、サウジアラビア、ベネズエラ)で、これらの国は世界中の人々を対象としている。
国際的には中国が主要なプレーヤーとなってきており、2019年の香港での反政府デモまでは中国国内のプラットフォーム(Weibo、WeChat、QQ)を主に使っていたが、その後はFacebookやTwitter、YouTubeを積極的に使うようになってきている。
使われるソーシャルメディアのプラットフォームは増えてきているが、それでも世論操作にはFacebookが最も多く使われており、正式に組織化されたプロパガンダがFacebook上で行われている証拠は56カ国で見つかっている。

中略

 ソーシャルメディアを使った世論操作がすでに世界中の多くの国で当たり前のように行われていることがよく分かる調査結果ですが、あくまで今回の調査はメディアで報道されるなど実態がある程度判明しているものが対象であることに注意が必要です。実際には明確な証拠がないために曖昧なままになっているケースも少なくないことは想像に難くありません。したがって、今回の結果の細かい数字にこだわる必要はなく、ざっくりとした全体像をつかむだけで良いでしょう。

 今回は報告書の概要を簡単に紹介しましたが、報告書自体は正味20ページ程度で図表も多く、読むのに苦労する内容ではありません。興味のある方はぜひ原文をご覧ください。

URL
The Global Disinformation Order
2019 Global Inventory of Organised Social Media Manipulation
https://comprop.oii.ox.ac.uk/wp-content/uploads/sites/93/2019/09/CyberTroop-Report19.pdf
CNET Japan(2019年9月27日付記事)