僧侶を手軽に分かりやすい金額で手配できることで好評を博した「お坊さん便」が、アマゾンでの取り扱いを終了する。その背景には仏教界との対立があった。今後、僧侶派遣サービスはどうなるのか。(ダイヤモンド編集部 大根田康介)

●昨年比150%超の成長 僧侶派遣サービスが普及した理由

 「アマゾンでの『お坊さん便』の取り扱いを終了します」――10月24日、よりそう(旧みんれび)は、こうリリースした。

 お坊さん便とは、葬儀供養など仏事の際にインターネット上で民間の僧侶を手配し、全国に一律定額で派遣できるサービスのことだ。

 2013年に運営を開始し、15年から大手ECサイトのアマゾンで出品。年間累計問い合わせ件数の実績は、14年度に比べて18年度は約13倍になった。また、直近の19年第2四半期では、新規外部受注分で昨年比150%超と成長を続けている。

 僧侶の登録者数も1300超に及んでおり、革新的なアイデアが消費者、僧侶の双方に受け入れられたことになる。

 では、なぜお坊さん便が普及したのか。

 その背景には、お墓参りに行く時間がない、お布施の金額が不明瞭で僧侶とはあまり付き合いたくない、などの理由で先祖供養をする「菩提寺」を必要としなくなった葬儀や供養といった法事をめぐる消費市場の変化がある。

 その一方で、僧侶も収入源が減っており、少しでも法事に関わる機会を増やしたいというニーズがあった。

●「宗教行為を商品化するな」 新勢力と旧勢力の対立

 同社の売上高に占めるお坊さん便の割合は「非開示」(同社広報)だが、同社の主力サービスであることは間違いない。

 では、なぜ売上に貢献してきたアマゾンでの取り扱いを終了したのか。

 その背景には、日本の伝統仏教界における唯一の連合組織「全日本仏教会」の存在がある。

 「お坊さん便」がアマゾンで出品された際、同会は「お布施はサービスの対価ではない」「宗教行為を商品化してはいけない」といった反対声明を出した。

 こうして、新勢力のお坊さん便VS旧勢力の全日本仏教会という構図が生まれた。

 そんな中、よりそうは1年ほど前から「仏教関係者に対してお坊さん便の役割を説明する機会を増やしてきた」(同社広報)という。

 そして今年春ごろ、両者が直接対話する場が設けられた。

 その中でアマゾンでの出品が文化・宗教行事を商品化したように見えたり、不要なものだという誤解を広めてしまった側面があったこと。葬儀と弔いにおける仏事の重要な役割は、身近な人と死別した悲しみを癒す「グリーフケア」であり、その重要性を希薄化させてしまったことなどを、よりそう側が認めたという。

●僧侶の目から見た 仏教界の生存競争

 こうしてみると、新勢力が旧勢力との争いに屈したともみてとれるが、事はそう単純でもなさそうだ。

 よりそうは、お坊さん便の窓口を自社サイトに一本化し、サービスを継続する。

 なぜなら、消費者心理の変化によって寺院離れが進んでいるという現実があり、全日本仏教会としては民間企業の力を借りてでも消費者と寺院との接点を維持し、グリーフケアの意義を広めたいという思惑があるからだ。

 よりそうとしても、消費者が寺院や仏事に価値を感じなくなれば、サービスそのものが成立しなくなる。そこで両者は対立ではなく、協業という選択をとったという訳だ。

 最近では、お坊さん便のみならず、僧侶派遣サービスを手掛ける企業が増えた。

 ある僧侶はこう話す。

 「今の世の中、お寺を維持して僧侶たちの生活の面倒を見たいという人はほぼいない。今回の件は、よりそうにダメージはないだろう。むしろ自社サイトに一本化して勝負を賭けてくる。つまり各社とも一層、熾烈さが増していくだろう。今後、寺院と葬儀社の生き残りをかけた戦いがいよいよ始まる」

 今や、葬儀はいらない、お墓はいらない、僧侶はいらないというのが時代の流れだ。

 そんな中、お坊さん便のアマゾンからの撤退は僧侶派遣サービスの終えんではなく、むしろ仏教界とそれを取り巻くビジネスの生存を賭けた本格的な競争の号砲が鳴ったと捉えた方がいい。

 この僧侶の言葉には、そんな意味が込められている。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191109-00219904-diamond-bus_all
https://amd.c.yimg.jp/amd/20191109-00219904-diamond-000-1-view.jpg