真冬の実情を正直に申しますと

2カ月ほど前までなら、100kmとは言わないまでも「80kmくらいは走れると思います」と答えていた。
それに対する客の反応は「意外と走れるんですね」と「え〜ッ、それしか走れないの」がほぼ半々。
けれど、どうしてもエアコンが必要な真冬の実情はまるで違う。

たったいま充電を終えたところなんですよ、40kmしか走れませんでした。

こんなこと言ったらリーフのイメージに傷がつくようで、運転手としては心苦しいのだが、とりあえず言ってみる。
「えッ……、40km……」
彼はそう言ったきり、さっきまでの質問責めの勢いは失せ、しばし沈黙。「ふ〜ッ、悩む」
えッ?
「いや、ひとりごとです」
そして、また黙り込んだ。

もしかして、運転手の「40km発言」が彼に悩みの種をまいてしまったというのか?気になる。
けれど、目的の鬼子母神に着くまで、彼はもう運転手とは喋(しゃべ)ろうとはしなかった。
俺は、確かに、何かいけないことを言ってしまったようだ。
リーフの補助金に詳しい関西のおばちゃんを最初に、充電前まで4回、充電後の営業回数も4回で、この日の仕事は早々に切り上げた。
「ずいぶん早い上がりだね……」
会社に戻ったところで休憩中の同僚は少し驚いていたようだけれど、実はね……。

急速充電は「フル充電」とはいかず、およそ8割程度までで充電は終わり、バッテリー残量は約18kWhまで回復(注)する。
これで、いったいどれくらい走れたかと言えば、その距離35km。
もう一度急速充電したところで35kmしか走れない、と、そう思ったら気持ちがなえて、もう帰る、というわけだ。
「そりゃ、俺でも帰る」同僚は納得である。

帰庫した時点でバッテリー残量を示す目盛りは2つしか残っておらず、「あと17km走れます」(話半分と考えて8km強)の数字を見ながら「ふ〜ッ」とため息をついたリーフタクシーの運転手。

リーフ、寒い日は“仕事向き”のクルマじゃないな。
運転手は、誰もいない車庫で、誰に言うでもなく、そう呟(つぶや)いたのだった。