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中国・四川省の成都で行われたイベントのリハーサルに臨むアリスさん

中国東部で、16歳の少年は自宅の床に座り、恐る恐る外科用メスで自分の性器を切り取ろうとしていた。自分の望まない体をどうにかしたいと思っての行動だった。

中国ではいまだにトランスジェンダーは「精神疾患」だとされており、少年は家族には怖くて打ち明けられなかった。

その代わりに、インターネットで性器除去のやり方を見て、自らの手で手術を試みたのだった。

だが、1回メスで切りつけてみただけで、あまりの痛さに諦めた。少年はその後、病院にも行かず、自分がやったことを誰にも言わなかった。

23歳になった少年は今、アリスと名乗っている。あれは命に関わる危険な行為だったと認める。

「やけくそになっていたし、怖かった」とアリスさんはAFPに語った。「どうにかしなければという気持ちだった」

中国にはトランスジェンダーの公的な統計は存在しない。

性別適合手術を提供する医療施設はほとんどなく、ホルモン療法についての専門的情報もほとんどない。そのため、闇市場やインターネットを利用するしか手段がない。

トランスジェンダーは、家族の法的同意なしには性別適合手術を受けることができない。

それにもかかわらず、多くの人は疎外されたり勘当されたりするのを恐れて、この問題について家族と話したがらないのが現状だ。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)の2019年の報告書によると、中国では差別がまん延し、性別適合手術に関する情報も不足している。

さらにホルモン剤を使った治療には、中国の平均月収の10%に相当する多額の費用が発生する。

このためトランスジェンダーの多くは、違法で危険性の高い治療や危険な自己手術を試みている。

■変わらない社会の保守的態度

アムネスティ・インターナショナルの中国研究者ドリアーヌ・ラウ(Doriane Lau)氏は、「差別的な法律と政策によって、多くの人が極めて危険な外科手術を自らに施して命を危険にさらすか、

闇市場で危険なホルモン剤を購入する以外に選択肢がないと感じている」と指摘する。

中国政府は今年3月、国連人権理事会(UN Human Rights Council)のLGBTI(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックス)に対する差別禁止を求める勧告を受け入れた。

世界保健機関(WHO)は5月、「性同一性障害」を国際疾病分類(ICD)の精神障害の分類から除外している。

現在、性的少数者の支援活動に携わるアリスさんは、性的少数者、特にトランスジェンダーに対する中国社会の保守的な態度が、政府の対策が遅々として進まない理由だと指摘する。

アリスさんは「今はまだ時期ではない。政府ができることは、社会の意見によって制限されてしまう」と話す。

「次世代が発言力をつけるようになるまで待つ必要がある。その時には改善されているだろう」

アリスさんは昨年、タイで男性器を切除する手術を受けた。手術費用は9万元(約140万円)を超えた。

アリスさんは術後の生活について、「ずっと自然でいられて、とても気分がいい」と話す。「(性自認は)必ずしも白黒つけられるものではないので…本当に良かった」

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