認知症の人と信頼関係を ケア技法「ユマニチュード」 長崎県内医療現場で導入始まる
「最善の仕事をするために必要」
2020/3/28 11:30 (JST)
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 認知症の人の不安や緊張を和らげるケア技法「ユマニチュード」が県内の医療現場でも導入され始めている。背景には、けがや病気とともに認知症を抱え、診療の意図が理解できない患者の増加がある。導入した病院では、治療や食事を拒否する事例が減るなど成果が出ている。一方で多様な医療従事者が学ぶ必要性を訴える声もある。

 「頭をかいてもらうから待ってもらえる?」。1月中旬の午後。佐世保中央病院(佐世保市大和町)では、病室を訪れた看護師がベッドに横たわる高齢女性の肩をさすりながら話し掛けた。

 リウマチで入院し、軽度の認知症がある女性は穏やかな視線を返した。「看護師が来ればいい気持ちになると思ってもらうことが大事」。外来・救急外来看護課の野口操課長は明かした。

 ユマニチュードはフランスで生まれた。「見る」「話す」「触れる」「立つ」を重視。認知症の人と信頼関係を築く接し方を提唱している。

 急性期病院の佐世保中央病院では2017年、整形外科やリウマチ科などが入る3階南病棟をユマニチュードのモデル病棟にした。東京の研修拠点で学んだ野口課長らが看護師の処置や患者への対応に同行。声のかけ方や顔を近づける距離などを助言する。実践の様子は動画で振り返り、技術の定着を図ってきた。

 16年の高齢社会白書では、12年に65歳以上の7人に1人だった認知症高齢者が、25年には5人に1人になると推測。3階南病棟でも導入当初は高齢患者の3割以上が認知症と診断された。点滴や薬の服用を拒否されたり、本来は看護師1人でできる処置が数人がかりになったりすることがあった。

 導入から約3年がたち、着実に成果を重ねている。骨折の手術前で安静が必要とされるにもかかわらず、動きだそうとする認知症患者にユマニチュードで対応すると、落ち着きを取り戻し無事に手術を受けられた事例もあった。
医療管理部の中尾益代課長は「治療ができなければ入院が長引きリハビリも進まない。患者と家族双方の負担が大きくなる」と強調。一方、本年度モデル病棟になった3階南病棟の中山清嗣看護課長は、「患者に関わる全ての職種がしなければ、台なしになるようにも感じる」と話す。

 長崎大医学部では昨年、医学科の3年生がユマニチュードを体験する授業を初めて開いた。同大地域包括ケア教育センター長の永田康浩教授は、複数の病気を抱えて長生きする高齢社会で、医師には高度な専門性に加えて患者の生き方を考える姿勢も求められると指摘。「患者にとって最善の仕事をするために必要なことを示しているのがユマニチュード。人との触れ合いを学び、患者に“アンテナ”を張れる医師を育てたい」と話した。