経済損失188億円
インバウンド(外国人旅行客)の受け入れに力を入れてきた。2〜4月はターゲットとするタイからの約2400人分の予約が入っていたが、新型コロナウイルスの影響で全て吹き飛んだ。土湯温泉観光協会によると、同温泉では1日現在、5月までの延べ約1万3000人分の予約がキャンセルとなった。このうち外国人は3900人に上る。
県旅館ホテル生活衛生同業組合によると、組合加盟の旅館、ホテルの2〜4月の宿泊キャンセルは8万1500件に上り、キャンセルによる損害額は約30億円となった。加盟する約530の事業所を調べ、157事業所から回答を得た。日銀福島支店の推計では、観光客減少が本県経済に与える損失は188億円。組合の担当者は「関東圏からの旅行者が減ったほか、県内でも感染した人が相次いで確認されたことを受けて県民も一層旅行しにくくなっている。このままではゴールデンウイークも厳しい状態が続くのではないか」と見通した。
影響は旅館、ホテルにとどまらない。磐梯熱海温泉(郡山市)の旅館関係者の男性(49)は「リネン関係や食材など関係するほかの業者にも影響が波及している」と危機感を隠さない。観光バスも苦境に立たされている。
県内中小企業の支援に取り組む県中小企業診断協会の渡辺正彦会長(65)は「大きな温泉旅館にはたくさんの従業員がいる。観光産業は雇用の受け皿であり、裾野の広い産業でもある。失われれば雇用の崩壊を招く」と指摘、県に早急な対策を求めた。「本県は製造業とともに観光産業の比重が高い産業構造だ。国に要望するばかりでなく、県としての大胆な支援策が必要だ」
福島県内観光...『苦境を力』
「お座敷がほとんどなくなってしまった」。東山温泉芸妓(げいぎ)屋協同組合(会津若松市)の今村初子理事長は嘆いた。例年1〜3月はお座敷が続き「真っ黒になる」はずの帳面が、今年はキャンセルを示す「棒線」が目立つ。「こんな時だからこそしっかりと芸に磨きを掛け、終息した時に、お客さんを呼び込めるようにしたい」。今村理事長は言葉に力を込める。
会津若松市では教育旅行への打撃も深刻だ。昨年度、県外から訪れたのは658校約4万4000人(海外除く)で、半数余りの343校が年度初めの4〜6月に集中している。本年度もほぼ同規模を見込んでいたが、会津若松観光ビューローによると、4〜6月の予約のほとんどが延期となった。
スケート場やプール、サッカー場など複数の施設がそろっている利点を生かして「スポーツコンベンション」に力を入れてきた磐梯熱海温泉(郡山市)ではスポーツ合宿などで利用、宿泊する団体客の予約のほとんどが取り消しになった。旅館関係者の男性(49)は「スポーツ合宿での利用が多い春休み期間に団体客の予約が入らない影響は大きい」と肩を落とした。
新品タオル活用
いわき湯本温泉(いわき市)では、影響を最小限にとどめようと、温泉に「免疫」を高める効果が期待されることをアピールするなど各旅館が知恵を絞っている。ホテルいづみやは、日帰り入浴客や宿泊客に新品タオルで作ったマスクを配布する計画を進めており、薄葉裕一代表(49)は「温泉の力を発信して、今の苦しい時をチャンスに変えて、観光客と地元の人が交流できる環境を整えたい」と話した。
本県の温泉地は震災、原発事故で苦しい思いをした。土湯温泉観光協会(福島市)の池田和也常務理事事務局長(62)は9年前と比較してこう語る。「賠償金や行政のさまざまな支援があった。原発事故の避難者の受け入れで部屋もある程度埋まり、生き延びることができた。今回は(被災地だけでなく全体が影響を受けているので)そうした支援が期待できない」
「早く支援策を」
郡山市中心部にあるホテルの代表を務める男性(59)は「震災時は徐々に良くなっていくのを肌で感じられたが、今は停滞の度合いがひどくなっている。(利用者の減少などの被害が)限定的で一過的だった東日本台風の後とも全く違う前例のない状況だ」と語り、国に対する切実な思いも吐露した。「支援策の内容について良い悪いの議論が繰り広げられているが、少し問題があってもいいから早く決定をしてほしい」
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