■「エリート・コントローラー」とは? HIVウイルスに耐性のある人々

エイズ(後天性免疫不全症候群)の原因ウイルスであるHIVは、ヒトのリンパ球T細胞(CD4+T細胞)に侵入して増殖し、自分の遺伝子をヒトのDNAに挿入して、定着してしまいます。
一度ヒトのDNAに潜り込んだHIVの遺伝子は、その部分だけ後から切り出して消すことはできません 
よって、HIVに一度感染した人は、一生、HIVと共に生き続けるしかないのです。HIVに感染したヒトのCD4+T細胞は、何も治療をしないとどんどん減り続け、最終的にエイズを発症して死亡してしまいます。

ところが、エリート・コントローラーはたとえHIVに感染したとしても、CD4+T細胞の数は減りません。体内のHIVの数も少なく、増えません。よって、何も薬を飲まなくてもエイズを発症することはないのです。
エリート・コントローラーの体は普通の人と何が違うのでしょうか?
答は、CD4+T細胞の表面に存在するCCR5という受容体にあります。エリート・コントローラーは、CCR5の遺伝子に異常があり、正常なCCR5受容体を作れない人が多いのです。

実はHIVは、CD4+T細胞表面にあるCCR5受容体を利用してCD4+T細胞に侵入するのです。CCR5受容体に異常があると、HIVはCD4+T細胞に侵入できず、増殖することができません。よってエリート・コントローラーの体内ではHIVは増殖することが困難なのです。
CCR5受容体の遺伝子変異は、北ヨーロッパの白人の16%に見つかります。よってこれらの地域ではHIVに耐性を持つ人達の数が多いのです。
実は、今は絶滅した天然痘というウイルスもCCR5受容体を利用してCD4+T細胞に侵入することがわかっています。欧州のように昔、天然痘が大流行した地域にこのような遺伝子変異を持つ人々が多いのです。

現在ではHIVに感染した人もHIVがT細胞に侵入して自らをコピーする過程を阻害する様々な抗HIV薬を同時に飲む(多剤併用療法)によって、T細胞の減少を抑え、エイズの発症をほぼ防ぐことができるようになっています。
その中で重要な薬にマラビロクという薬があります。これは実はCCR5阻害薬なのです。この薬によって、エリート・コントローラーではない普通の人も、HIVのCD4+T細胞への侵入を減らすことができるのですね。
さらに最近、T細胞を取り出してCCR5遺伝子をエリート・コントローラーのように改変し体に戻すことにより、T細胞数を増やしHIVのウイルス数を減らせることがマウスを用いた実験でわかりました。