「五輪ファースト」で失敗

「みなさん、一緒に乗り越えていきましょう」

4月13日、新宿アルタの外壁に設置された大型ビジョンに東京都知事・小池百合子氏の顔が大写しにされている。
普段であれば買い物客の往来で賑わう新宿東口も、緊急事態宣言下では人通りもまばらだ。ガランとした街に小池知事の声が響き渡った。

小池知事は新型コロナウイルス感染拡大を受け、外出自粛を呼びかけるテレビCMや街頭ビジョンを連日、発信している。都営地下鉄などでポスターを見た人もいるのではないか。

「7月5日に控えた都知事選、また来年の都議選に向けてのアピールでしょう。とはいえ広告費は都民の税金から支払われています。
コロナ対策とはいえ、自分の顔を前面に出して広告を打つのは公私混同も甚だしい」(自民党都議)

いまでこそコロナに立ち向かう英雄気取りの小池知事だが、新型コロナ関連で最初に緊急記者会見を開いたのは3月23日。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会がIOCと電話会議で東京五輪の延期を検討することで合意した翌日のことだった。

政治アナリストの伊藤惇夫氏が語る。

「彼女はオリンピックの延期が決まるまでは何の具体的な手も打たず、コロナ問題については積極的な発言を控えていたのです」

'16年の都知事選で打ち出した築地市場の豊洲への移転見直し計画を説明不足のまま撤回。翌'17年の総選挙では希望の党を立ち上げるも、「排除」発言が炎上して惨敗した。
小池氏にとって、起死回生のために唯一残されたカードがオリンピックだったのだ。

「小池さんは五輪のホスト知事を務めることしか考えていない」と語るのは官邸スタッフの一人である。だが、この五輪への執着が初動の遅れを招いた。

「3月20〜22日の3連休の最中の21日、小池氏は厚労省クラスター対策班から『4月2〜8日に患者320人』と感染拡大の試算を受けとっていたのに公表しませんでした
3連休は好天に恵まれ、多くの人出があった。対応が遅れたせいで感染が拡大したという批判は免れません」(同・官邸スタッフ)

小池知事は出だしから間違いを犯していたのだ。普通であれば、絶体絶命のピンチだが、ここが、小池氏が凡百の政治家とは違う点だ。小池劇場はここから始まる。

五輪が「利用できない」と見るや、すぐさまコロナ対策にシフト、「ロックダウン」や「重大局面」といったフレーズで徹底的に煽り、都民の注目を一身に集めたのだ。

「ロックダウンと聞いて、都市封鎖、首都封鎖になると想像した人たちも少なくなかったはずです。
しかし、人権の保護を重視する日本の法制度ではそれは不可能です。緊急事態宣言=ロックダウンという誤解を生む発言でした」(前出・伊藤氏)

小池氏の発言は混乱を招き、スーパーなどで買い占めが起こった。

これも大きな間違いだったと言えるだろう。しかし、小池氏に近い代議士は、小池知事の計算のうちだったと言う。

「小池さんはロックダウンなどできっこないとわかっていてあえて言ったんです。危機を煽り、混乱状態を作り出すことで、対応がぬるい政府vs.現実を見据えた都知事という構図を演じてみせた」

こうしたパフォーマンスが功を奏し、小池知事を支持する世論が高まりつつある。自民党はすでに都知事選で、小池百合子知事に対抗する候補者を立てられず、擁立を見送る方針を固めている。