2020年5月21日 17時29分
https://mainichi.jp/articles/20200521/k00/00m/040/153000c
日本新聞協会と日本民間放送連盟は21日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い医療従事者や感染者らへの差別や偏見が問題になっていることを受け、「センセーショナルな報道にならないよう節度をもった取材と報道に努めていく」との共同声明を出した。
声明は、感染者がデマを拡散されたり、医療従事者やその家族がホテルの宿泊を拒否されたりするケースが起きていることに懸念を示し「こうした事態が続けば医療従事者の離職を生み、医療崩壊の危機が高まることになる」と指摘。報道のあり方について「社会にとって有用な情報を、プライバシーを侵害しない範囲で提供するという観点から、議論を深めていく」と表明した。
両団体は、京都大iPS細胞研究所長の山中伸弥教授ら専門家から差別・偏見防止策を共に検討するよう求められたことを受け、合同ワーキンググループ(WG)を設置し、ウェブ会議で意見交換をしてきた。【山本佳孝】
日本新聞協会と日本民間放送連盟が21日に発表した「新型コロナウイルス感染症の差別・偏見問題に関する共同声明」は次の通り。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、感染者や医療従事者、エッセンシャルワーカーの方々に対する差別・偏見が大きな問題となっている。
私たち新聞協会と民放連は、医学研究者や臨床家ら専門家からの要望を受け、感染者やその家族、医療従事者や医療機関がどのような差別や偏見に苦しめられているのか、取材・報道活動には何が求められているのか、専門家と意見交換を行った。
その結果、未知のウイルスによる病そのものの苦しみに加え、差別・偏見による人々の分断、経済活動の停滞による生活の困窮など、社会の危機が幅広く根深く進行しており、国民の知る権利に応える報道の公共的役割は一層重大になっていることを改めて強く認識した。そのため、両団体の共同声明をここに発表することとした。
感染者については、インターネット上で実名を暴こうとされたり、デマが拡散されたりするなどの人権侵害事例が生じている。医療従事者に関しては、とりわけ感染者を受け入れた医療機関の従事者やその家族がホテルの宿泊や保育所の預かりを断られたり、心ない発言で傷つけられたりするケースが起きている。こうした事態が続けば医療従事者の離職を生み、医療崩壊の危機が高まることになる。
新聞協会と民放連の加盟各社は、こうした差別・偏見、中傷は決して許されないとの考え方を共有している。感染拡大以降、各社において不当な人権侵害に対する追及や、SNS等で拡散された疑わしい情報のチェックなどに取り組んできたが、今後より一層、差別・偏見がなくなるような報道を心がけたい。
新型コロナウイルスは無症状や軽症の感染者が多く、別の疾患で受診して知らぬ間に医療従事者に感染させることが少なくない。院内感染については、医療関係者に正確・迅速な情報提供を求めるとともに、私たちも院内感染が起きやすいこのウイルスの特性を読者や視聴者・リスナーにわかりやすく伝え、センセーショナルな報道にならないよう節度を持った取材と報道に努めていく。
感染者に関する公表や報道のあり方についても、社会にとって有用な情報を、プライバシーを侵害しない範囲で提供するという観点から、議論を深めていく。
正しく恐れ、人をいたわる。そのような姿勢が社会全体に広がり、収束に向けて人々が安心して暮らせる社会を取り戻していけるよう、私たちは報道機関としての役割を一層自覚し、読者や視聴者・リスナーの期待に応えていかなければならないとの決意を新たにしている。