地域住民から「コロナさん」の愛称で親しまれている老舗の食堂「味蔵コロナ食堂」(長野県佐久市臼田)が、新型コロナウイルスの感染者が増えてきた3月ごろから嫌がらせに苦しんでいる。無言電話がかかってくるようになり、インターネット上に心ない書き込みが増加。3代目店主の須藤仁志さん(42)は「新型コロナと店名は全く関係ない。耐えるしかない」と唇をかむ。【坂根真理】


 旧日本軍で炊事を担当していた祖父が、「子どもたちが甘いものに飢えているだろう」と、1944年に甘味処(どころ)「コロナ」を創業した。太陽の表面を覆うガスの層「コロナ」が店名の由来という。事業を継いだ2代目の父が食堂にシフト。店名を「味蔵コロナ食堂」に改め、70年以上、おなかをすかせてやって来る人たちの胃袋や心を満たしてきた。

 異変が起きたのは2020年3月ごろ。頻繁に無言電話がかかってくるようになり、インターネット上には「こんな名前のお店に入りにくい」などといった冷やかしの書き込みが目立つようになった。看板の写真だけを撮影し、ケラケラと笑いながら立ち去っていく人もいたという。

 「営業妨害だ」と憤る仁志さんの心を支えるのは、常連客の言葉だ。心ない書き込みを見た客から「大丈夫か」と心配する声や、名古屋からソースカツ丼目当てにやって来る顔なじみから「また必ず食べに行く」といった励ましの声が届く。

 18日には、旧臼田署(現臼田警部交番)の元署長からも励ましのはがきが届いた。コロナ食堂は臼田署に長年弁当を届けてきた。冷たい弁当を出す業者が多い中、「どんなに悪さをした人でも温かいご飯が食べたいだろう」とほかほかのご飯を届けることにこだわった。仁志さんの母親は「佐久署で白状しなかった人も臼田に来ると白状したんだって。温かい弁当を食えるからって」と懐かしむ。

 新型コロナウイルス感染拡大に伴い客足は激減したが、4月の売り上げは前年比48%減だったため、国の給付金は対象外だった。損失を補うための借金を新たに重ねても、来春まで店が存続できるかどうかは不透明で、経営は苦しさを増す。

 心ない誹謗(ひぼう)中傷が客足をさらに遠のけていると考える仁志さんは「ネットの人は憂さ晴らしでやっているからね。ネット上で反論しても、火に油を注ぐだけ。店が潰れるなら、コロナ以外の理由で潰れたいよ。コロナで潰れるのがしゃくに障るだけ。この状況でも来てくれるお客さんがこの店の宝物。耐えるしかない」と力なく語った。

毎日新聞2020年5月23日 17時26分(最終更新 5月23日 17時26分)
https://mainichi.jp/articles/20200523/k00/00m/040/186000c