日本のジャーナリズムを支えてきた新聞業界が縮小を続けている。
地域紙の廃刊、休刊、地方紙の夕刊撤退が相次ぎ、発行部数の減少も止まらない。

行政の監視など新聞が果たしてきた役割は決して小さくないが、新聞に代わるジャーナリズムの受け皿はまだ育っていない。
新聞が消えた地域では地方選挙の投票率への影響が指摘されている。

元ロイター通信記者で近畿大総合社会学部の金井啓子教授(ジャーナリズム論)は
「新聞は危機的状態だが、社会にとってジャーナリズムはなくてはならない。頭が痛い問題だ」と現状を危惧している。


地方紙は夕刊から撤退、発行部数は右肩下がり

都道府県内の一部地域で発行される地域紙は2015年8月に全国約200の存在が確認されていた。
しかし、その後は毎年、廃刊や休刊に追い込まれる地域紙が出ている。

2016年は京都府亀岡市の京都丹波新聞など、2017年は福岡県久留米市の久留米日日新聞など、
2018年は広島県尾道市の山陽日日新聞など、2019年は新潟県三条市の越後ジャーナルなど、
2020年は郷土新聞のほか、北海道千歳市の千歳民報が歴史を閉じた。

地方の人口減少と高齢化の進行、若者の新聞離れによる発行部数の減少、広告収入の下落が主な原因だが、
都道府県単位で発行する地方紙や全国で発行する大手紙も状況は変わらない。

地方紙では4月から大分県の大分合同新聞と徳島県の徳島新聞が夕刊発行を取りやめた。
大分合同新聞、徳島新聞とも社告で「人件費や原材料費の上昇に加え、人手不足で配達員の確保が難しい」と理由を説明した。

大手紙では産経新聞で四国など一部地域に記者が常駐していないところが出ているほか、
毎日新聞は徳島県三好市など通信部を廃止した地域の記事を地方紙に委託している。
大手紙から地域紙まで新聞業界全体が縮小に向かっているわけだ。

日本新聞協会がまとめた加盟社の総発行部数は2019年で約3781万部。2000年に比べ、29.6%も減った。
特に減少が著しいのが夕刊とスポーツ紙で、ともに2000年の半分以下に落ち込んでいる。

発行部数の減少は広告効果を押し下げ、広告収入の減少をもたらしている。
徳島県阿南市で建設会社を営む西野賢太郎さん(70)は「昔は地元紙に広告を出さないと宣伝にならなかったが、
最近は新聞広告を出しても反響がほとんどない」と打ち明けた。

新聞が担ってきた役割はニュースや各種情報の提供だけではない。権力を監視し、時には調査報道で隠れた問題を明るみに出してきた。
リクルートが関連会社の未公開株を政治家に配って利益供与したリクルート事件や、架空の捜査協力者をでっち上げて作った裏金を
北海道警の幹部が私的流用した北海道警裏金問題などは、新聞発のスクープだ。

しかし、こうしたスクープは最近、少なくなったように感じる。新型コロナ関係でも新聞発のスクープは多くなかった。
それどころか、権力との癒着や読者目線とかけ離れた視点を批判する声も出ている。発行部数の減少もあり、新聞の取材力が低下しているのだろうか。

新聞が消え、ジャーナリズムが失われると、どんなことが起きるのだろうか。米国では市民の行政に対する関心が薄れ、
地方選挙の投票率低下が報告されているほか、カリフォルニア州ベルでは地域紙がなくなったあと、
市の幹部が自らの給料を12倍に引き上げていたことが明るみに出た。

地域紙が消滅すると、報道空白地帯が生まれやすい米国と異なり、日本では地域紙、地方紙、大手紙が同じ地域で重層的に活動しているため、
空白地帯が生まれにくい。それでも茨城県土浦市を中心に発行していた常陽新聞が2017年に休刊した影響を茨城大でメディア文化を学ぶ学生が調べたところ、
市町村行政の監視機能が低下していることが分かった。
https://www.sbbit.jp/article/cont1/38078