昨年7月の参院選をめぐり、前法相の衆院議員河井克行容疑者と妻の参院議員案里容疑者(ともに自民党離党)が逮捕された公職選挙法違反事件で、党本部は夫妻側に送金した計1億5000万円の使途を「広報費」としか明らかにしていない。党内には安倍晋三首相(党総裁)ら執行部の説明不足に対する不信感が募る。一方、これを「買収の原資」とみる野党は、一段と攻勢を強めた。

 「首相には、なぜ1億5000万円も払わないといけない候補だったのか、説明責任がある」。自民党幹部の一人は19日、こう言い切った。
 ◇「広報費」に疑問
 二階俊博幹事長は夫妻が離党した17日、1億5000万円の使途について、記者団に「党勢拡大のための広報紙を複数回、全県に送った費用に充てられた」と説明。「買収資金に使うことはできない」と強調した。
 しかし、夫妻が逮捕された18日は記者団の質問に応じず、「捜査の推移を見守りたい」とのコメントを文書で発表するにとどめた。
 案里容疑者の陣営は、広島県内の全世帯に3〜4回程度、チラシを配布したとされるが、費用の詳細は不明。党参院幹部は「(地元議員らに渡ったとされる)2570万円の原資だったのか、調べないといけない」と指摘した。
 「広報費」との説明に対し、党内からは「帳簿上はそうなっているが、怪しい。党の資金以外にも官房機密費が使われている可能性もある」(関係者)との疑念も漏れる。
 1億5000万円の提供を誰が決めたのかも不透明なままだ。党関係者の一人は「これだけ多額の資金を一人の候補者に振り込むことは、通常あり得ない。首相官邸の指示がないとできない」と指摘した。
 先の参院選で案里容疑者と競合、落選した岸田派ベテランに、党本部から提供されたのは、10分の1の1500万円だった。岸田派が18日に開いた例会では「(広報費に)1億5000万円もかかるわけがない。ちゃんと説明すべきだ」との恨み節が漏れた。
 ◇「買収資金」と追及
 野党側は真相究明を求めて勢いづく。立憲民主党の安住淳国対委員長は19日、自民党の森山裕国対委員長と会談し、国会の閉会中審査で首相が直接説明するよう要求。森山氏は「前例がない」と難色を示したが、安住氏は「答えられる人は首相しかいない」と譲らなかった。
 衆参両院の法務委員会は19日の理事懇談会で、法務省から事実関係を聴取した。野党共同会派の階猛氏は「1億5000万円が買収資金に使われたのではないか」とただしたが、与党側は「この場で議論すべきではない」と反発。理事懇後、階氏は記者団に「(与党が)非常にナーバスになっている」と述べ、今後も追及する考えを示した。

時事通信 2020年06月20日07時20分
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