コロナショックで安倍晋三首相の苦闘が続く中、政権ナンバー2の二階俊博自民党幹事長の言動が、政界で注目の的となっている。混戦模様の「ポスト安倍レース」でも、首相の「4選」に言及したかと思えば、反安倍の立場を鮮明にする石破茂元幹事長を「期待の星」などと持ち上げる変幻自在ぶり。首相を筆頭とする世襲政治家とは対照的な「(組織に所属しない)一本どっこの叩き上げ」(自民長老)と位置付けられる二階氏。持ち前のしたたかな腹芸ぶりから「政界の絶滅危惧種」(同)とも呼ばれるだけに、「コロナ政局を動かすキーマン」(自民幹部)になることは間違いない

 これまで、麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官と共に「政権の3本柱」として、首相を支えてきたのが二階氏。ところが、緊急事態宣言を受けてのコロナ対策の目玉だった国民への現金給付をめぐり、政府に「困窮家庭限定30万円」を「全国民一律10万円」に大転換させるきっかけをつくったのが、二階氏の「国民には10万円給付を求める切実な声がある」との発言だった。これを受けて公明党の山口那津男代表が政権離脱もちらつかせて方針転換を迫った結果ではあるが、政界では「公明党と意を通じる二階氏が仕掛けた」と受け止められた。政府がいったん閣議決定した第1次補正予算案の組み直しを余儀なくされたのは前代未聞の事態で、これを機に「首相の求心力低下が加速した」(閣僚経験者)のは間違いない。

 二階氏が6月8日に石破氏と会談して、9月に予定される石破派政治資金パーティーでの講演を快諾したことも、ポスト安倍に絡む動きとして、自民党内に波紋を広げた。会談後に二階氏が「高みを目指してほしい期待の星の一人」と、石破氏を持ち上げたからだ。その一方で、国会閉幕直後の18日に告示された東京都知事選では、早くから小池百合子知事の再選支持を公言し、自民党都連の反対を抑え込む剛腕ぶりも見せつけた。「党のことは俺が決めるとのアピール」(側近)だ。

◇狙うは「最強のキングメーカー」?

 二階氏はすでに81歳と高齢で、常々体調不安説もささやかれ、永田町では「政界引退は間近」との声も少なくない。数々の“爆弾発言”も「その場の思い付きにすぎない」(政府筋)との指摘もあるが、二階氏周辺は「極めて緻密な戦略に基づくもの」と強調する。「ここにきて、二階氏の発言が政局の流れを変えている」(二階派幹部)のは事実だからだ。17日の国会閉幕を受けて、政界では夏から秋にかけての、「コロナ解散」やその前段となる党・内閣人事の断行説が流布されている。「お定まりの衆院解散と人事による党内の抑え込み」(閣僚経験者)とみる向きも多いが、二階氏は1日の記者会見で「早期解散の必要性は感じていない」などと機先を制してもいる。

 その一方で二階氏は、首相との“隙間風”がささやかれる菅氏と「水面下で連携を進めている」(細田派幹部)との見方も多い。首相は国会での野党の質問に「官房長官とは一心同体」と強調したが、昨年9月の党・内閣人事で二階氏の交代を模索した首相を押しとどめたのが菅氏だったことは、永田町で周知の事実だ。

 そうした中、首相が10日に盟友の麻生氏と2人だけで約1時間も密談したのも、「解散時期や人事を話し合ったとの憶測を党内に広げることでの求心力回復作戦」(自民幹部)とみられている。ただ、こうした「3本柱の足並みの乱れ」(岸田派幹部)が、政局運営での二階氏の存在感を高める要因となっており、二階氏周辺からは「狙うはポスト安倍での最強のキングメーカー」(側近)との声も出ている【政治ジャーナリスト・泉 宏/「地方行政」6月22日号より】。

時事通信 2020年06月28日19時00分
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